「最近、つまずきやすくなった」「階段を降りるのが怖い」「ふらつくことが増えた」——こんな経験はありませんか?
転倒は、高齢者の生活を一変させる大きなリスクです。骨折や入院をきっかけに、寝たきりや要介護状態になることも少なくありません。実際、65歳以上の約3人に1人が年に1回以上転倒を経験しているというデータもあります。
しかし、転倒の多くは予防可能です。そして、その予防において理学療法士は重要な役割を果たします。この記事では、理学療法士が転倒予防にどのように関わり、健康寿命を延ばすためにどんなサポートをしているのかを解説します。
○なぜ転倒が起こるのか?
転倒の原因は一つではありません。複数の要因が重なり合って起こることがほとんどです。
身体的な要因
- • 筋力の低下:特に下肢(脚)の筋力低下
- • バランス能力の低下:ふらつきやすくなる
- • 柔軟性の低下:関節が硬くなり、動きが鈍くなる
- • 歩行能力の低下:歩幅が狭くなる、すり足になる
- • 視力の低下:段差や障害物に気づきにくい
- • 反応速度の低下:とっさに手をつけない
環境的な要因
- • 段差やつまずきやすいもの(カーペット、電気コードなど)
- • 照明が暗い
- • 滑りやすい床
- • 手すりがない階段
心理的な要因
- • 転倒への恐怖:「また転ぶかもしれない」という不安
- • 活動量の低下:恐怖から外出や運動を控える
- • さらなる身体機能の低下:悪循環に陥る
理学療法士は、これらの要因を総合的に評価し、一人ひとりに合わせた転倒予防プログラムを提供します。
○理学療法士が行う転倒リスクの評価
1.転倒歴と生活状況の聞き取り
- • 過去に転倒したことがあるか
- • どんな場面で転倒しやすいか
- • 日常生活での不安や困りごと
2.身体機能の評価
筋力測定
- • 立ち上がる力
- • 歩く力
- • バランスを保つ力
バランステスト
- • 片足立ちができるか
- • 目を閉じて立てるか
- • 不安定な場所でバランスを保てるか
歩行評価
- • 歩く速度
- • 歩幅
- • 歩き方の特徴(すり足、ふらつきなど)
柔軟性のチェック
- • 足首や膝、股関節の動きの範囲
3.転倒リスクスコアの算出
これらの評価を総合して、転倒のリスクがどの程度あるかを客観的に判定します。
○理学療法士による転倒予防プログラム
評価に基づいて、具体的な予防プログラムを実施します。
1.筋力トレーニング
転倒予防には、特に下肢の筋力強化が重要です。
太もも(大腿四頭筋)の強化
- • スクワット
- • 椅子からの立ち上がり練習
- • 階段昇降練習
ふくらはぎの強化
- • つま先立ち運動
- • 歩行練習
体幹(お腹・背中)の強化
- • 姿勢を保つための筋肉を鍛える
- • バランスの基盤をつくる
2.バランストレーニング
静的バランス(止まった状態でのバランス)
- • 片足立ち
- • 足を前後に開いて立つ練習
- • 不安定な面での立位練習
動的バランス(動きながらのバランス)
- • 歩きながら方向転換
- • 障害物をまたぐ練習
- • 素早い動きへの対応練習
3.歩行トレーニング
- • 正しい歩き方の指導
- • 歩幅を広げる練習
- • つまずかないための足の上げ方
- • 安全な階段の昇り降り
4.柔軟性の向上
- • ストレッチ
- • 関節の動きを広げる運動
- • 身体の硬さを改善
5.環境調整のアドバイス
- • 自宅の危険箇所のチェック
- • 手すりや照明の設置提案
- • 適切な履物の選び方
- • 杖や歩行器などの補助具の提案
6.転倒恐怖への対応
転倒への恐怖は、活動量を減らし、さらなる身体機能低下を招きます。
理学療法士はこれらを通じて、心理的な不安も軽減します。
- • 安全な環境での段階的な練習
- • 自信を取り戻すサポート
- • 「できること」を増やす取り組み
○転倒予防が健康寿命を延ばす理由
健康寿命とは
健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことです。日本人の平均寿命は世界トップクラスですが、健康寿命との差は約10年。この期間は、何らかの支援や介護が必要な状態です。
転倒が健康寿命に与える影響
転倒により骨折(特に大腿骨頸部骨折)すると
・入院・手術が必要になる
・安静期間により筋力が急速に低下
・歩行能力の低下
・活動範囲の縮小
・要介護状態へ
つまり、たった一度の転倒が、自立した生活を奪う可能性があるのです。
○理学療法士による予防の効果
転倒予防プログラムに取り組むことで
- • 転倒リスクが約30〜40%減少
- • 骨折のリスクも軽減
- • 自立した生活の維持
- • 活動的な日常の継続
- • 健康寿命の延伸
つまり転倒予防は「ただ転ばないようにする」だけでなく、「自分らしく、元気に長生きする」ための重要な取り組みなのです。
○転倒予防はいつから始めるべき?
「まだ転んだことがないから大丈夫」と思っていませんか?
実は、転倒予防は転ぶ前から始めることが大切です。
こんな兆候があれば要注意:
• つまずくことが増えた
• 歩くスピードが遅くなった
• 階段の昇り降りが不安
• 片足立ちで靴下が履けない
• ふらつくことがある
• 長時間歩くと疲れやすい
これらは、転倒リスクが高まっているサインかもしれません。
○予防は何歳からでも効果的
「もう歳だから」と諦める必要はありません。何歳からでも、筋力やバランスは改善できます。理学療法士は、一人ひとりの状態に合わせた無理のないプログラムを提供します。
CURE(治療)ではなくCARE(ケア)の視点
転倒予防は、病気を「治す」ことではなく、健康を「守る」「維持する」取り組みです。
理学療法士は、CURE(治療)だけでなくCARE(ケア)の専門家
• 今ある身体機能を最大限に活かす
• 加齢による変化と上手に付き合う
• 自分らしい生活を長く続ける
転倒予防は、まさに「ケア」の視点に立った理学療法士の重要な役割なのです。
保険診療と自費リハビリ、どちらでも対応可能
転倒予防のリハビリは、医療機関や介護施設での保険診療のほか、自費リハビリでも受けることができます。
○自費リハビリのメリット
• 転倒の経験がなくても、予防目的で利用できる
• 時間をかけて丁寧に評価・指導
• 一人ひとりに合わせたオーダーメイドプログラム
• 継続的なフォローアップ
国家資格を持つ理学療法士だからこそ、保険診療の枠を超えて幅広いサービスを提供できます。
参考記事:自費リハは違法ですか? で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
○理学療法士に相談を
転倒は、健康寿命を縮める大きなリスクですが、適切な予防により多くは防ぐことができます。
理学療法士は、転倒リスクを専門的に評価し、筋力トレーニング、バランス練習、歩行訓練、環境調整などを通じて、一人ひとりに合わせた転倒予防プログラムを提供します。
転倒予防は「転ばないようにする」だけでなく、「自分らしく、元気に長生きする」ための大切な取り組みです。
「まだ大丈夫」と思っているうちから始めることで、より効果的に健康寿命を延ばすことができます。ぜひ、理学療法士にご相談ください。