第2回 ボッチャ選手 木村朱里さん(前編)

ボッチャを始めてから、自分の体を気遣うようになりました。
スポーツは、「健康と楽しく生きる」ことにつながると思います。

 

 

KEEP UPでは、リクリエーションの一つとして、高齢者施設などでの“ボッチャ”導入をサポートしています。ボッチャは、重度脳性麻痺者や同程度の四肢重度機能障害者のために考案された、パラリンピックの正式種目に採用されているスポーツ競技です。

ACEコラム第2回は、2020年東京パラリンピックへの出場を目指している、木村朱里選手に登場いただき、ボッチャの魅力、体力づくりなどについてお話を伺いました。前編、後編に分けてお届けいたします。

 

パラリンピックへの夢

白坂:今日は、よろしくお願いいたします。早速ですが、普段、障害者スポーツ文化センター“横浜ラポール”で練習されているそうですね。私はスポーツクラブのインストラクターをしていた頃、車椅子に座った高齢者の方たちをどう指導して良いか分からなくて見学に行ったことがあるんです。そのときボッチャの練習風景を見て、「これは絶対に取り入れたい!」と思いました。

木村さんは、いつからボッチャを始められたのでしょうか?

 

木村:去年の2月くらいです。それまで全くスポーツをしたことがなかったんですが、突然パラリンピックに出てみたいと思い、どの競技なら可能性があるのかいろいろ探しました。興味のあったセーリングとアーチェリーは、腕の力や握力が必要なので諦めていたところ、日本バリアフリー協会の方からボッチャを薦められました。

ちょうど“パラリンピアンとボッチャをやろう”という体験会があったので参加してみました。「これなら私にもできそう」と思って主催の方に相談したら、横浜ラポールを紹介されたんです。「私にもできるスポーツがある」と発見したことが嬉しかったですね。

 

 

白坂:障害がある方は、社会性を求めてスポーツをする方が多いように思いますが、木村選手はお仕事を通してすでに社会との交流があるので、ボッチャを純粋にスポーツとして捉えたということですね。

 

木村:そうですね。私は、障害がある知人はほとんどいないんです。ボッチャを始めたことで知り合いが増え、私より障害の重い人でもスポーツしていることを知り、いろいろと情報交換できるようになったのは大きいです。

 

白坂:今日は、いつも使っていらっしゃるボールを持ってきていただきました。試合で使用するボールに決まりはありますか?

 

木村:競技規則では重さと大きさだけが規定されていて、材質は自由です。寄せるときや弾くときなど、状況によって重さや柔らかさ、材質が違うボールを使い分けます。ジャックボールと呼ばれる白いボールは的にするので、あまり動かないように一番柔らかくなっています。固いのは力が無くても遠くに飛ばせますし、相手のボールをバンッと弾くときに適しています。

選手はみんなボールにこだわっていて、中に入っている細かいプラスチックの粒を自分で抜いて調節したりするんですよ。

 

体力づくりとメンタルトレーニングの必要性

 

 

白坂:ボッチャを始められてから、気持ちの持ち方など、ご自身の中で変化したことはありますか?

 

木村:今までスポーツをしていなかったので、どうやって体を動かせばいいのかなど、自分の体と体調を把握するようになりました。試合に向けていかに体調を上げていくか、でいつも頭がいっぱいで(笑)。健康管理の目安になっています。

 

白坂:食べる物にも気をつけていらっしゃいますか?

 

木村:以前は気にしていませんでしたが、意識するようになりましたね。たんぱく質を多く摂るようにしています。

 

白坂:スポーツには集中力も必要ですよね。集中力は体力だと思います。体力がないと集中力もない。体力がある人は、試合中に集中力が途切れないので、強いんだと思います。

 

木村:そうですね。体力づくりは課題で、自分にとって一番効果的なトレーニング方法を探しています。

 

白坂:ダンベルを使って、体に負荷をかけてみてはどうでしょうか。筋肉痛になるまでする必要はないですが、手首に500gのウェイトを付けて、自分の体重よりも数パーセント重い状態で練習すると、外したときに軽く感じられて、動きが楽になります。

人間は座っているときも、立っているときも常に重力と戦っているんです。重力に対して自分が重くなれば、その分体力が付きます。トレーニングは基本、重力と抵抗し合うことなんです。

 

木村:なるほど、取り入れてみます!体力づくりの他に、メンタルトレーニングの必要性を強く感じています。試合中は会場全体がものすごく静かですし、周囲の人が見つめている中で投球しなければならないのでとても緊張します。先日の大会で、自分のメンタルの弱さを思い知らされました。普段できていることが、全然できなくなってしまったりして。どうやってメンタルを強化するか、今悩んでいます。

 

白坂:メンタルトレーニングは難しいですよね。クラスは障害の程度によって分けられていますが、男性、女性では分けられていないんでしょうか?

 

木村:男性、女性の区別はありません。男性とはパワーに差があるので、不利だなと思うことがあります。でも、みなさん障害があるので、単純に男性だから強くて体力があるというわけではありません。

今年は競技規則が変わって、各クラスに必ず女性の強化選手を入れることになり、大会で予選を突破しなくても、成績がクラスで一番良ければ強化選手に選ばれるようになりました。

(後編に続く)

 

 

<木村朱里選手プロフィール>

1983年生まれ。幼少期に難病を発症し、車椅子での生活を余儀なくされる。

ボッチャ歴は1年。仕事の傍ら東京2020パラリンピック出場を目指し、日々練習とトレーニングに励んでいる。