コラム 2025.09.08

オーダーメイド型リハビリプラン 施設入居者個別で自立支援

高齢化が急速に進む日本において、介護施設への入居者は年々増加しています。

施設入居者の生活の質を高めるためには、食事や医療的ケアと同じくらい「リハビリテーション」が欠かせません。

特に、個別性に基づいた オーダーメイド型リハビリプラン の重要性は、私たち理学療法士にとって教育・研究・臨床のすべての現場で強調されるべき課題だと考えています。

施設入居者といっても、その背景は多様です。

脳卒中の後遺症を抱える方、変形性関節症で関節の動きに制限がある方、加齢によるフレイルが進んだ方など、身体状況も生活歴も異なります。

したがって一律の運動プログラムでは十分な成果を得られず、むしろ本人の意欲を低下させてしまう可能性さえあります。

だからこそ、理学療法士による 個別リハビリプランの作成と実施 が求められるのです。

 

施設入居者におけるリハビリの現状と課題

介護保険制度の枠組みの中で、施設入居者が受けられるリハビリには一定の制限があります。

通所や訪問リハビリに比べ、施設内でのリハビリは画一的になりやすく、「全員での体操」「簡易的な歩行練習」にとどまることも少なくありません。

もちろん集団体操にも効果はあります。

しかし、それだけでは「立ち上がるのが難しい」「杖なしでトイレまで行きたい」といった個別のニーズに応えることは難しいのが現状です。結果として、入居者の潜在能力が十分に引き出されないまま、介護量だけが増えていくこともあります。

このような課題を解決するのが、オーダーメイド型リハビリプランです。

○オーダーメイド型リハビリプランの特徴

1.個別評価に基づくアセスメント

まず大切なのは「評価」です。関節可動域、筋力、バランス能力、歩行速度などの身体機能評価に加え、日常生活の行動観察や生活歴の聞き取りを行います。「何に困っているのか」「本人が何を望んでいるのか」を丁寧に把握することが出発点です。

.目標設定の共有

リハビリは本人と家族の目標が一致してこそ力を発揮します。

本人が「自分で食堂まで歩きたい」と願う一方で、家族が「転倒が心配だから車いすでいい」と考えている場合、方向性がずれてしまいます。理学療法士は両者の意見を調整し、現実的かつ前向きなゴールを一緒に設定します。

.個別プログラムの実施

設定した目標に応じて、最適なリハビリプランを組み立てます。例えば、立ち上がり動作が困難な方には大腿四頭筋の筋力強化や椅子の高さ調整を、歩行不安のある方には段差昇降やバランストレーニングを導入します。生活の中に直結した練習を行うことが、自立支援の近道です。

4.定期的な再評価と修正

人の体は日々変化します。プランを一度立てて終わりではなく、定期的に再評価し、改善が見られればステップアップ、体調が不安定なら内容を調整します。この柔軟性こそがオーダーメイド型の強みです。

○自立支援におけるリハビリの効果

オーダーメイド型リハビリプランを取り入れることで、施設入居者の自立度は大きく向上します。

  • 転倒リスクの低減:バランス能力や筋力が向上し、転倒による骨折を防ぐ。
  • ADL(日常生活動作)の改善:トイレ動作や入浴動作が自力でできるようになる。
  • 生活意欲の向上:「自分でできる」体験が自尊心を高め、うつ予防にもつながる。
  • 介護負担の軽減:介助量が減り、介護スタッフや家族の身体的・精神的負担が軽くなる。

リハビリは単に身体を鍛える行為ではなく、生活全体の質を底上げする重要な手段なのです。

 

○教育・研究の視点から

大学教授として教育に携わる中で強調しているのは、「リハビリは人を診る学問である」 という点です。学生には、教科書的な運動療法だけでなく、入居者一人ひとりの生活背景を踏まえたプランニングの重要性を繰り返し伝えています。

研究の面でも、施設入居者を対象にした個別リハビリプランの効果検証は進んでいます。歩行能力や生活の自立度が統計的に有意に改善することが報告されており、科学的根拠に裏付けられた実践として社会的な注目も高まっています。

○今後の展望

今後はICTやAIを活用したリハビリプランの個別化が進むでしょう。ウェアラブル機器で歩行状態を常時モニタリングし、そのデータをもとに理学療法士がプランを調整する、といった取り組みも現実味を帯びています。

また、地域包括ケアの流れの中で、施設内だけでなく地域と連携した自立支援が求められます。施設入居者が「施設の中で生活を閉じる」のではなく、「地域とつながり続ける」ためのリハビリも重要になっていくでしょう。

◎おわりに

施設入居者のリハビリは、「安全に過ごしてもらう」ことだけが目的ではありません。自らの意思で動き、生活を楽しみ、尊厳を持って暮らしていただくためのサポートです。

画一的な運動メニューから一歩踏み出し、個別性に基づくオーダーメイド型リハビリプランを導入することは、入居者の自立支援に直結します。そしてそれは、ご本人だけでなく、ご家族や介護スタッフにとっても大きな安心につながるのです。

理学療法士として、そして教育者としても、私は今後も「施設入居者一人ひとりに最適化されたリハビリ」を追求し続けたいと考えています。