脳卒中や神経の病気によって「麻痺」が起こると、これまで当たり前にできていた歩行が難しくなることがあります。
歩けなくなると、トイレに行く、ベッドから起き上がるといった日常生活の多くが制限され、介護が必要になってしまいます。
しかし、麻痺が残っても適切なリハビリを続けることで、自分の部屋の中を一人で歩けるようになる可能性は十分にあります。
居室内で歩けるようになれば、生活の自由が大きく広がり、介護する家族や職員の負担も軽くなります。
ここでは、理学療法を専門とする大学教授の立場から、麻痺がある方が「居室内安全歩行」を取り戻すための考え方や工夫をわかりやすく解説します。
◎麻痺が残ると「歩くこと」が難しくなる理由
麻痺があると、歩行は次のように難しくなります。
- ・ 足の力が弱くなる:股関節や膝、足首をしっかり動かせず、体を支えにくくなる。
- ・ バランスが取りにくい:片足で体重を支える時間が短くなり、転倒の危険が増える。
- ・ 歩き方がぎこちなくなる:片方の足を大きく回すように出したり、膝が突っ張ったまま歩いたりする。
- ・ 足の感覚が鈍る:床の感触が分かりにくく、歩くことに不安を感じやすい。
つまり「足が弱ったから歩けない」のではなく、力・バランス・感覚が同時に影響して歩行が難しくなるのです。
○安心安全な歩行を取り戻す「4つのやさしいステップ」
1.まずは安全を優先
転ばないことが最も大切です。
- ・ 杖や歩行器など、その人に合った補助具を使う
- ・ 部屋の段差をなくす、滑り止めマットを敷く、手すりを設置する
- ・ 本人が「歩けるかも」と思えるよう不安を取り除く
安心できる環境が整えば、歩こうとする気持ちが高まります。
2.立つ・座る動作から練習
いきなり歩くのではなく、
- ・ ベッドから立ち上がる
- ・ 椅子から立つ
- ・ 支えを使って立ったまま体を安定させる
といった基本動作を丁寧に繰り返すことで、歩くための土台が作られます。
3.短い距離から歩行練習
- ・ 平行棒や手すりを使って少しずつ足を前に出す練習
- ・ 短い距離を繰り返し歩くことで、体に正しい動きを覚えさせる
- ・ 膝が折れる、足を大きく回すなどの「クセ」を修正し、効率のよい歩き方に整えていく
4.実際の生活に結び付ける
- ・ 「ベッドからトイレまで」など、生活の動線を使った歩行練習
- ・ 洗面や着替えの動作に歩行を組み合わせる
- ・ 繰り返すことで自然に体が動作を覚え、日常生活の一部として歩行が定着していく
○希望を支える 理学療法士だからできる3つの安心サポート
歩行を取り戻す過程では、理学療法士の専門性が重要です。
- ・ 体の仕組みに基づいたサポート:どの筋肉や関節が弱っているかを見極め、効果的に改善を促す。
- ・ 脳の回復力を活かす:繰り返し練習することで、脳が新しい動きを覚えていけるように指導する。
- ・ 生活に即した工夫:リハビリ室だけでなく、実際に部屋や生活環境に合わせたアドバイスを行う。
単に「歩く」ことを目指すのではなく、実際の生活の中で安全に自立できる歩行をゴールとする点が大きな特徴です。
◎麻痺があっても諦めず、少しずつ前に
麻痺によって歩行が難しくなっても、居室内で自分の足で移動できるようになることは十分に可能です。
- ・ 安全な環境を整える
- ・ 基本の動作を取り戻す
- ・ 短距離から繰り返す
- ・ 実際の生活動作に結び付ける
この4つの流れを踏まえてリハビリを行えば、「麻痺があっても一人で歩ける」という大きな目標が現実になります。
理学療法士は、その道のりを一人ひとりに合わせて支える専門家です。
歩行の回復は、生活の自立や尊厳を守るための大切な一歩。麻痺があっても諦めず、少しずつ前に進むことが、豊かな日常生活を取り戻すカギとなります。