コラム 2025.10.14

呼吸が浅くなったり、息切れするようになったと感じたら~家庭でのリハビリ~

 「最近、呼吸が浅い気がする」「少し動いただけで息切れするようになった」――こうした変化は、年齢を重ねた高齢者だけでなく、中年期以降の方にも現れることがあります。

呼吸は生命を支えるもっとも基本的な機能ですが、その変化には意外と気づきにくいものです。

理学療法士として臨床や研究に携わってきた経験から申し上げると、呼吸の変化は体力低下や姿勢の崩れ、活動不足など、複数の要因が重なって生じます。

そして、早めに適切な対応を行うことで、息切れの進行を防ぎ、日常生活をより快適に送ることができます。

本コラムでは、呼吸が浅くなったり、息切れするようになったと感じたときに注目すべき点と、家庭でできるリハビリの工夫を解説します。

○なぜ呼吸が浅くなるのか?

呼吸の変化にはいくつかの要因が考えられます。

1.筋力低下

 

 呼吸には、横隔膜や肋間筋といった呼吸筋が使われます。

加齢や活動量の低下によりこれらの筋力が弱まると、一回の呼吸で取り込める空気の量が少なくなり、浅い呼吸になってしまいます。

.姿勢の影響

 背中が丸くなる猫背姿勢は、胸郭の動きを制限し、十分に息を吸えなくなります。その結果「呼吸が浅い」と感じやすくなります。

.心肺機能の変化

 高血圧や心疾患、肺疾患を背景に持つ場合、少しの動作でも息切れが出やすくなります。

4.心理的要因

 不安や緊張が続くと交感神経が優位になり、速く浅い呼吸を繰り返す傾向があります。

息切れが出ると生活にどう影響するのか

呼吸が浅い、息切れがするという状態は、単なる不快感にとどまりません。活動量が減ることで筋力がさらに落ち、動くことがますます辛くなる「負の連鎖」に陥りやすいのです。

その結果、階段や買い物といった日常生活の動作が制限され、社会参加の機会が減少し、生活の質が低下してしまいます。

○家庭でできる呼吸リハビリ

ここからは、家庭で無理なく行える呼吸改善の方法を紹介します。理学療法士の立場から、安全性に配慮した内容を選びました。

1.腹式呼吸

  • ・椅子に座り、背筋を伸ばして鼻からゆっくり息を吸います。
  • ・お腹が膨らむのを感じながら、口からゆっくり息を吐きます。
  • ・1回につき5〜10回を目安に。
    → 横隔膜をしっかり動かし、深い呼吸を取り戻す基本練習です。

.口すぼめ呼吸

  • ・鼻から息を吸い、口をすぼめて「ふー」とろうそくを消すように吐きます。
  • ・息を吐く時間を吸う時間の2倍程度にします。
    → 吐く呼吸をコントロールでき、息切れを和らげます。

. 胸を開くストレッチ

  • ・両手を後ろで組み、胸を開きながら肩甲骨を寄せます。
  • ・10秒キープを3回。
    → 猫背の改善につながり、胸郭が動きやすくなります。

4.軽い下肢運動と組み合わせる

  • ・その場足踏みや椅子からの立ち座りと腹式呼吸を組み合わせると、全身の持久力向上にも役立ちます。

○安全に取り組むための注意点

  • ・息苦しさが強い場合や胸の痛みを伴う場合は、すぐに医療機関を受診してください。
  • ・無理に長く続けず、1日数回に分けて行う方が効果的です。
  • ・高齢の方は必ず安定した椅子に座るなど、転倒予防を意識しましょう。

○家族ができるサポート

ご本人が「呼吸が浅い」「息切れするようになった」と感じていても、周囲に言い出せないこともあります。ご家族が気づいたら、一緒に呼吸法を試してみたり、外出時に休憩を提案するなど、さりげない支えが大切です。

◎呼吸リハビリを取り入れ生活の質の向上を

呼吸が浅くなったり、息切れするようになったと感じるのは、加齢や生活習慣に伴う体のサインです。早めに気づき、家庭でできる呼吸リハビリを取り入れることで、体力の低下を防ぎ、日常生活を快適に過ごすことが可能です。

理学療法士は、呼吸と身体機能を総合的に評価し、個々に合わせた改善方法を提案できる専門職です。もしご家庭での工夫だけでは改善が見られない場合は、遠慮なく専門家に相談してください。呼吸の質を高めることは、生活の質そのものを向上させる第一歩となります。