コラム 2025.08.13

「なんだか歩き方が変…?」親の歩き方に違和感を覚えたら

「年だから仕方ない」では済まされない歩行の変化

高齢になると、筋力の低下や関節の変形、神経系の衰えなどによって、歩き方が少しずつ変化していきます。

それが転倒や骨折、そして介護が必要な状態への「始まりのサイン」であることも少なくありません。

理学療法士として多くの高齢者と関っていると、歩き方の変化は非常に重要な観察ポイントだと実感します。

歩行は下肢の筋肉や関節だけでなく、バランス感覚、神経の働き、視覚など、さまざまな身体機能が関係しているため、わずかな違和感にも注意が必要です。

 

○こんな歩き方、見覚えありませんか?

  • ・ 歩幅が狭く、すり足になっている
  • ・ 歩く速度が以前より遅くなった
  • ・ 片脚をかばうように歩いている
  • ・ 歩き始めや方向転換時にふらつく
  • ・ 壁や家具につかまって歩く
  • ・ 歩行中にバランスを崩しやすい

これらの変化は、いわゆる「フレイル(加齢に伴う虚弱)」や「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」の初期サインであることがあります。

見過ごさず、早期に対応することで、将来の転倒や寝たきりを防ぐことができます。

○歩行の変化が示す身体からのサイン

1.下肢筋力の低下

年齢とともに最も早く衰えるのが、太ももやお尻などの下肢の筋肉です。

特に大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)は歩行時に重要な役割を果たします。この筋力が落ちると、膝が曲がったままになったり、足を前に出しづらくなったりして、歩幅が狭くなりがちです。

加齢に伴い下肢筋力は徐々に低下し、特に60歳以降でその減少が顕著になります1)

また、下肢筋力の低下はバランス能力や動的・静的安定性の低下と密接に関連し、転倒リスクの増加や日常生活動作の制限につながります2,3)

.関節の変形や痛み

膝や股関節に変形があると、痛みを避けるためにかばった歩き方になります。

片足に重心が偏ることで、左右の筋力バランスも崩れ、転びやすくなります。特に変形性膝関節症は、高齢女性に多くみられる疾患です。

.バランス能力の低下

加齢により、三半規管や足裏の感覚、視覚情報の処理能力が低下すると、バランスを取る力が弱まります。

立ち上がり時や方向転換のときにふらつく、歩行中に揺れるといった変化は、神経系の機能低下が背景にある可能性があります。

○転倒・骨折リスクのはじまり

歩行が不安定になると、最も心配なのが「転倒」です。

転倒によって大腿骨を骨折すると、そのまま要介護状態に移行するケースもあります

特に女性では骨粗しょう症の影響もあり、骨がもろくなっている場合が多いため、転倒によるダメージは大きくなりがちです

日本人における骨粗鬆症の有病率は、年齢や測定部位によって大きく異なります。

代表的な大規模調査であるJPOS(Japanese Population-Based Osteoporosis Study)によると、50~79歳の日本人女性では、WHO基準で診断した場合、脊椎で約35%、大腿骨頸部で約9%、橈骨遠位部で約51%と報告されています4)

 

○理学療法士ができること

歩き方に違和感を覚えたとき、「病院に行くほどではない」「年のせいかも」と見過ごしてしまう方も少なくありません。そんな時にはぜひ思い出してください。

歩行のチェックや身体機能の評価は、理学療法士が専門とする分野です

理学療法士は、歩行分析や筋力測定、バランス機能の評価を通じて、身体のどこに問題があるかを明確にし、改善のためのトレーニング指導や、必要であれば医療機関への受診を促すことができます。

 

◎まとめ:違和感は見過ごさず、まず相談を

親の歩き方に「なんだかおかしい」と感じたら、それは身体からの大切なサインかもしれません。日常のわずかな変化にいち早く気づけるのは、家族だからこそできることです。

違和感を覚えたときは、地域の包括支援センターや介護予防事業、医療機関などに相談してみてください。理学療法士などの専門職がアセスメントを行い、必要な支援やトレーニングの提案をしてくれるはずです。

“気づくこと”が、転倒を防ぎ、元気な老後を支える第一歩になります。

References:

1)Pellegrino, R., Paganelli, R., Di Iorio, A., Candeloro, M., Volpato, S., Bandinelli, S., Moretti, A., Iolascon, G., Tanaka, T., & Ferrucci, L. (2025). Role for neurological and immunological resilience in the pathway of the aging muscle powerpenia: InCHIANTIstudy longitudinal results.. GeroScience.

2)Yeh, P., Syu, D., Ho, C., & Lee, T. (2024). Associations of lower-limb muscle strength performance with static and dynamic balance control among older adults in Taiwan. Frontiers in Public Health, 12.

3)Andrade, H., Costa, S., Pirôpo, U., Schettino, L., Casotti, C., & Pereira, R. (2019). Lower limb strength, but not sensorial integration, explains the age-associated postural control impairment.. Muscles, ligaments and tendons journal, 7 4, 598-602 .

4)Iki, M., Kagamimori, S., Kagawa, Y., Matsuzaki, T., Yoneshima, H., Marumo, F., & Group, F. (2001). Bone Mineral Density of the Spine, Hip and Distal Forearm in Representative Samples of the Japanese Female Population: Japanese Population-Based Osteoporosis (JPOS) Study . Osteoporosis International, 12, 529-537.