コラム 2025.09.23

施設内でも始められる生活リハビリ

理学療法士は病院や在宅のほか、介護施設でも活動の場があります。

施設では、普段の生活の様子を間近に観察でき、入居者の方が「どこで困っているのか」「どの動作を工夫すればもっと楽に過ごせるのか」を発見しやすいという大きな利点があります。

施設でのリハビリというと、専用の機械や広いスペースをイメージされる方も多いかもしれません。

しかし実際には、日常生活そのものがリハビリの場となり得ます。椅子から立ち上がる、トイレまで歩く、食堂へ移動する──これら一つひとつが生活リハビリのチャンスなのです。

 

施設で見える「小さなつまずき」

施設でよく耳にするのが、スタッフからの「最近、歩くのが遅くなった気がする」「立ち上がるときにふらつく」といった声です。

こうした変化は、入居者本人やご家族にとっては気づきにくいものですが、生活機能の低下のサインであることも少なくありません。

たとえば、

  • ・ 食堂までの移動に時間がかかるようになった
  • ・ ベッドから起き上がるときに介助を求める頻度が増えた
  • ・ トイレに間に合わないことが増えてきた

これらは単なる「年齢のせい」ではなく、生活リハビリを取り入れることで改善や維持が期待できる領域です。

○生活リハビリの実際

施設では、「日常の中に自然にリハビリを組み込むこと」も大切です。以下はその具体例です。

  • 立ち座りの繰り返し

 食堂で食事をとる前後に、自分で椅子から立ち上がる動作を意識してもらいます。必要に応じて椅子の高さを調整し、安全に行える環境を整えます。

  • 廊下での歩行練習

 移動は車いすを使わず、できる範囲で歩いてもらいます。スタッフと協力し、休憩ポイントを設けて安心して歩けるように工夫します。

  • 身支度や洗面を自分で行う

 時間がかかっても、自分のペースで行うことを尊重します。この「自分でできた」という体験が次の意欲につながります。

  • レクリエーション活動への参加

 ゲームや歌、手作業を通じて体を動かす機会を増やします。楽しさが伴うと、自然に生活リハビリが継続しやすくなります。

○施設スタッフとの連携

理学療法士の業務を進めるにあたっては、施設スタッフとの連携がとても重要です。

  • ・ 入居者の変化をスタッフから共有してもらい、必要なリハビリを提案する
  • スタッフが日常の介助の中で取り入れられる工夫をアドバイスする
  • ・ ご家族にフィードバックを行い、本人の生活意欲を高める

理学療法士一人だけで支援するのではなく、スタッフ全体で「生活リハビリを支える文化」を作ることが成功の鍵になります。

◎まとめ

施設で暮らす高齢者にとって、「生活リハビリ」は特別な運動プログラムではありません。日常の動作一つひとつがリハビリであり、自立を支える大切な時間です。

理学療法士は、施設スタッフや家族と連携しながら、その人に合った生活リハビリを提案し、実践の橋渡しをします。小さな工夫の積み重ねが、大きな生活の回復につながるのです。

施設内でも始められる生活リハビリ──それは「諦めない気持ち」を形にし、入居者が自分らしく暮らし続けるための最も身近で効果的な方法なのです。