コラム 2025.10.24

まだ元気なうちに何か始めないと」と焦ってませんか? ~リハビリを始めるベストタイミングとは~

「最近、親の足腰が少し弱ってきた気がする」「転ばないうちに何か運動を始めさせた方がいいのではないか」――。

介護をされているご家族や、これから介護が必要になるかもしれない高齢の親御さんを思う方の多くが、一度はこうした不安を抱えた経験があるのではないでしょうか。

私は理学療法士として臨床と教育に携わる大学教員の立場から、日々「いつ、どのようにリハビリを始めるのがよいのか」という相談を受けます。結論から申し上げると、リハビリは症状が悪化してから始めるのでは遅く、まだ自分で生活ができている“今この時”こそが最適なタイミングです。

 

○「まだ大丈夫」が一番危険!転倒・要介護につながるサイン

介護の現場では、「まだ歩けているから大丈夫」「食事もできるし元気そうだから様子を見よう」と考えがちです。しかし、加齢による筋力低下や関節の硬さは、少しずつ確実に進行しています。

特に70歳を過ぎると、太ももやお尻、背中などの大きな筋肉(抗重力筋と呼ばれる筋肉)が目立って衰え、気づいた時には階段の上り下りや立ち上がりに時間がかかるようになります。

介護が必要になる大きなきっかけの一つは「転倒」です。転倒を予防するには、歩く練習を始めてからでは遅く、まだ転んでいない今こそがリハビリを始めるチャンスです。

○予防リハビリがもたらす「自立」と「自信」の大きなメリット

リハビリというと、病気やケガの後に行うものと考える方が多いでしょう。しかし実際には、健康寿命を延ばすための「予防リハビリ」という考え方が重要です。

予防的にリハビリを始めると、単に筋肉や関節を守るだけでなく、「まだ自分は動ける」「自分の生活を自分で続けられる」という自信を持ち続けることができます。この自信は精神的な安定にもつながり、うつや閉じこもりを防ぐ大きな要素となります。

介護家族にとっても、親が自分で動ける期間が長ければ長いほど、介護の負担は軽減されます。「元気なうちからのリハビリ」は、ご本人だけでなく、ご家族の未来の安心にも直結するのです。

○特別な器具は不要! 自宅で始めるリハビリ3選

では、実際にどのように始めればよいのでしょうか。必ずしも難しい運動や専門的な機械が必要なわけではありません。

  • ・椅子からの立ち上がりを繰り返す:太ももやお尻の筋肉を鍛えます。
  • ・かかとの上げ下げ:ふくらはぎの筋肉を刺激し、歩行を安定させます。
  • ・姿勢を正して深呼吸:背中の筋肉を意識し、呼吸を整えます。

これらは日常生活の延長でできるシンプルなリハビリです。大切なのは、「毎日少しずつ続けること」です。

○自己流の限界と危険  理学療法士の指導で効果を最大化する

ただし自己流で行うと、関節に負担をかけたり、誤った方法でかえって痛みを引き起こすこともあります。そこで重要なのが、理学療法士など専門職のサポートです。理学療法士は解剖学や運動学に基づき、その方の体の状態や生活環境を踏まえて最適な方法を提案します。

「まだ大丈夫」と思う段階で専門家に相談し、オーダーメイドのリハビリプランを作ることは、今後の生活の質を大きく左右します。

◎リハビリは“早めに始めた人の勝ち”

「まだ元気だから大丈夫」という安心感は一時的なものであり、実際には体は少しずつ衰えています。介護家族の方に伝えたいのは、リハビリは症状が出てからではなく、元気なうちにこそ始めるべきだということです。

焦って何かを始める必要はありません。大切なのは、今日からできることを少しずつ積み重ねること。そして必要に応じて理学療法士に相談し、ご本人と家族が安心できる未来を一緒に作っていくことです。

「まだ元気なうちに始めるリハビリ」――それが、ご本人の自立とご家族の安心を守る最善の方法なのです。