コラム 2025.11.10

杖の使用を検討し始めたら…選び方、使用時の注意やポイント

「最近、歩くのが不安になってきた」「外出すると疲れやすい」「つまずきが増えてきた」ーそんな時に思い浮かぶのが「杖を使った方がいいのでは?」という選択肢です。
しかし、多くの方が「杖を使い始めると、かえって弱ってしまうのでは?」「どんな杖を選んだらよいのか分からない」といった不安や疑問を抱きます。そこで、今回は理学療法士が杖を使用するタイミングや選び方、正しい使い方について解説します。

○なぜ杖を使うのか 役割とメリット

杖は「歩けなくなった人のためのもの」と思われがちですが、本来は転倒を予防し、安全に移動するための補助具です。特に高齢になると、

  • ・足腰の筋力低下
  • ・バランス感覚の衰え
  • ・関節の痛み

などが重なり、日常の移動に不安が生じます。杖を使うことで、

  1. 1. 体重を分散できる(膝や股関節の負担軽減)
  2. 2. 転倒リスクを下げる(バランスを補助)
  3. 3. 外出の安心感が高まる(活動範囲が広がる)

といったメリットがあります。

つまり、杖は「歩けなくなったから仕方なく使うもの」ではなく、「今の生活をより安全に続けるためのパートナー」と考えると良いでしょう。

○杖を使い始めるタイミング

「杖はいつから使えばよいのか?」という質問をよく受けます。ポイントは次の通りです。

  • 転びそうになった経験が増えてきたとき
  • 長距離を歩くと強い疲れや痛みが出るとき
  • 家族から見て歩き方が不安定に感じるとき

「まだ大丈夫」と思って転倒してからでは遅いのです。杖は、“予防的に”取り入れることが重要です。

○杖の種類と選び方

一口に杖といっても、さまざまな種類があります。

 1. 一本杖(T字杖)

 最も一般的。軽くて扱いやすい。歩行がある程度安定している方に適しています。

 2. 多点杖(四点杖など)

 接地面が広く、安定性が高い。片麻痺やバランスが不安定な方に向いています。

 3. ロフストランドクラッチ(前腕支持型)

 前腕で支えるタイプ。上肢にしっかり体重を預けられるので、下肢に障害がある場合に有効です。

選び方のポイントは、「自分の身体能力に合っているか」です。見た目や価格だけで決めず、理学療法士や専門スタッフに相談して選ぶことをお勧めします。

杖の正しい高さ

杖が高すぎても低すぎても、かえって身体に負担がかかります。
適切な長さは、

  • 靴を履いて自然に立った状態で、腕を下ろした時の手首の高さ
    が基準です。握った時に肘が軽く曲がる(15度程度)長さが理想です。

○杖を持つ手はどちら?

痛みや弱さがある側と逆の手に持つのが基本です。
例えば右膝が痛い場合は、左手に杖を持ちます。そうすることで杖と反対側の脚で体重を分散でき、より安定して歩けます。

○使用時の注意とポイント

 1. 杖に頼りすぎない

 杖はあくまで補助。体重をすべて預けすぎると、足腰の筋力低下を招きます。

 2. 正しい歩行リズムを意識する

 「杖 → 痛い脚 → 健康な脚」の順で出すのが基本です。

 3. 屋外と屋内で使い分ける

 外出用は滑りにくいゴム先のものを。室内では軽量の杖が便利です。

○家族ができるサポート

介護家族にとって大切なのは、杖を「恥ずかしいもの」と思わせないことです。
「杖を持ったから安心して外出できるね」と前向きな声かけをすることで、ご本人の意欲も高まります。

また、転倒リスクを減らすために、家庭内の環境整備(段差をなくす、滑りにくいマットにするなど)も合わせて行うことが重要です。

◎杖は、より自由に生活する第一歩

杖の使用は「歩けなくなったサイン」ではなく、「これからも歩き続けるための工夫」です。
正しいタイミングで導入し、適切な種類・高さを選び、正しい使い方を守れば、転倒を防ぎ、生活の幅を広げることができます。

理学療法士としてお伝えしたいのは、「杖を持つことで活動をあきらめるのではなく、より自由に生活する第一歩になる」ということです。 ご自身やご家族の安心のために、「そろそろ杖を」と思った時が、実は最良の始めどきです。