コラム 2025.10.08

足腰の筋力低下を親が気にし始めたら~家庭でできるリハビリ~

高齢のご家族から「最近、足腰が弱ってきた気がする」「立ち上がりがつらい」といった言葉を耳にすることはありませんか。

理学療法の研究や臨床に携わる者として、このような声は加齢に伴う自然な変化であると同時に、日常生活に支障をきたす前に介入できる大切なサインであると考えています。

 

人は加齢とともに筋肉量や筋力が少しずつ低下します。

特に太ももやお尻といった下肢の大きな筋肉は、40歳を過ぎると年間約1%ずつ減少するともいわれています。

筋力の低下は「歩行速度の低下」「転倒リスクの増加」「要介護状態への移行」といった負の連鎖につながりかねません。しかし同時に、運動習慣を持つことで予防・改善できることも多くの研究で示されています

 では、家庭でできるリハビリにはどのようなものがあるのでしょうか。

専門施設に通わずとも、日常生活に取り入れられる簡単な運動が数多く存在します。ここでは代表的なものをいくつか紹介しましょう。

1.椅子からの立ち上がり運動

 椅子に腰かけた状態から立ち上がり、再び座る動作を繰り返します。これは「スクワット」の簡易版であり、大腿四頭筋や臀部の筋肉を鍛えるのに効果的です。

ポイントは「手を使わずに立ち上がる」「背筋を伸ばす」こと。無理のない範囲で、1日10回×2〜3セットを目安にするとよいでしょう。

.つま先立ち運動

 台所や洗面所で、カウンターに手を添えて行える運動です。

かかとをゆっくり上げ下げすることで、ふくらはぎの筋肉が鍛えられ、歩行時の推進力やバランス能力の向上につながります。特に転倒予防に有効です。

.その場での足踏み運動

 テレビを見ながらでもできる運動です。

できれば膝を少し高く上げ、腕を振って足踏みをしましょう。下肢の筋肉だけでなく、心肺機能の維持にも効果があります。

4.日常生活そのものを運動に

 特別な運動だけでなく、日常の動作を「少しだけ負荷をかけて行う」ことも大切です。

たとえば階段を使う、掃除を積極的に行う、買い物で歩く距離を増やすなど。これらの活動が積み重なることで、結果的に筋力維持につながります。

○家族ができるサポート

高齢者が運動を継続するうえで大切なのは「安心」と「励まし」です。

転倒を恐れて運動を避けてしまう方も少なくありません。見守りながら一緒に取り組む、声をかける、ときには一緒に散歩に出かけることが、最大の支えとなります。

○医学的な視点から

理学療法学の立場から付け加えると、足腰の筋力低下が「単なる加齢」なのか、それとも「疾患による影響」なのかを見極めることも重要です。

膝や腰の強い痛み、しびれ、急激な筋力低下がある場合には、整形外科やリハビリ専門職への相談が必要です。適切な診断と治療を受けることで、安全に運動を継続できる環境を整えることができます。

◎「できることがある」という視点が変化をもたらす

 親が足腰の筋力低下を気にし始めたとき、それは単に衰えを受け入れるタイミングではなく、新しい生活習慣を取り入れるチャンスです。家庭でできる簡単な運動を続けることで、筋力は維持・改善でき、生活の質を高めることができます。理学療法の研究はその効果を裏付けています

 「もう歳だから仕方ない」ではなく、「まだできることがある」と考える視点が、本人にも家族にも前向きな変化をもたらすのです。