「最近、歩くのが遅くなった気がする」「椅子から立ち上がるのが大変そう」「転びそうになってヒヤッとした」
——こうした場面を、家族や支援者の方が目にすることは少なくありません。
理学療法士として多くの高齢者と接してきた経験から、筋力の低下が高齢期の生活に与える影響の大きさを日々痛感します。
筋力の衰えはゆっくりと進行するため、「いつの間にかできないことが増えていた」と感じる方がほとんどです。
しかし、早期に兆候に気づき、適切な対応をとることで、その影響を最小限に抑えることが可能です。
◎高齢者に見られる「筋力低下」のサインとは?
筋力の低下は、年齢とともに誰にでも起こる自然な変化ですが、それが日常生活の自立性を損なうレベルになると問題になります。
特に以下のような兆候が見られた場合は注意が必要です。
- ・ 歩行速度が遅くなる
- ・ 段差をまたぐのに苦労する
- ・ 椅子から立ち上がるのに時間がかかる
- ・ つまずきやすくなった
- ・ 洗濯物を干す、掃除機をかけるなど、家事が億劫になる
これらは、「フレイル(虚弱)」や「サルコペニア(加齢による筋肉量減少)」の初期兆候である可能性があります。
実際、加齢に伴う筋力低下は40歳以降に始まり、特に70歳以降では年間3〜5%の割合で筋力が低下すると報告されています(Janssen et al., 2002)。
○影響は“動き”だけじゃない 生活全体に及ぶ影響
筋力が衰えると、単に動作が遅くなるだけでなく、「自分らしい生活を続けること」が難しくなっていきます。
たとえば以下のような影響があります。
- ・ 買い物や外出の頻度が減る
- ・ 社会的な交流が減る
- ・ 活動量の低下によって食欲も減退し、さらに筋肉が減る悪循環に陥る
- ・ 転倒・骨折により寝たきりになるリスクが上がる
このように、筋力の衰えは身体機能の問題にとどまらず、心理面・社会的側面にも影響することがわかっています(Cruz-Jentoft et al., 2019)。
○対処法:早期発見と“生活に根ざした運動習慣”が鍵
1.評価と気付き
まずは、筋力低下の兆候を早期に見つけることが重要です。
自宅でも実施できる簡易的な評価としては、「5回立ち座りテスト(Five Times Sit to Stand Test)」があります。これは、椅子に座った状態から立ち座りを5回繰り返し、かかる時間を測るものです。
15秒以上かかる場合、下肢筋力やバランス能力の低下が疑われます(Bohannon, 2006)。
2.継続可能な運動習慣
重要なのは「無理なく、続けられる」運動を日常生活に取り入れることです。
高齢者の場合、筋力トレーニングは特別な器具がなくても十分可能です。
例えば
- ・ 椅子からの立ち座りを1日3回×2セット
- ・ 洗面所での歯磨き中につま先立ちを10回
- ・ 買い物時に歩く距離を少し長くする
こうした「生活動作に組み込む運動」が継続の鍵になります。
また、可能であれば地域の通いの場や運動教室、理学療法士による個別のリハビリ支援など、専門職のアドバイスを受けることで、より安全かつ効果的な取り組みが期待できます。
○理学療法士として伝えたいこと
「歳だから仕方ない」と感じた時こそ、私たち理学療法士の出番です。筋力の衰えは、確かに加齢の一部ではありますが、適切な対処で改善・維持が可能な領域でもあります。
筋肉は何歳からでも鍛えることができる、というのは、科学的にも実証されています(Fiatarone MA et al., 1990)。
そして、筋力を保つことは、自分で選び、動き、つながる力を保つことに他なりません。
◎おわりに
筋力の低下は、日々の生活に静かに、しかし確実に影響を及ぼします。だからこそ、その変化に早く気づき、できることから始めることが大切です。
家の中でできる簡単な運動、環境の工夫、そして家族や地域とのつながり——それらの積み重ねが、将来の介護予防や生活の質の維持につながります。
私たち理学療法士は、これからも皆さまの「動く力」「暮らす力」を支える存在としてサポートしていきたいと考えています。
・anssen I, et al. (2002). Skeletal muscle mass and distribution in 468 men and women aged 18–88 yr. J Appl Physiol.
・Bohannon RW. (2006). Reference values for the five-repetition sit-to-stand test. Perceptual and Motor Skills.
・Cruz-Jentoft AJ, et al. (2019). Sarcopenia: revised European consensus on definition and diagnosis. Age and Ageing.
・Fiatarone MA, et al. (1990). High-intensity strength training in nonagenarians. JAMA.