コラム 2025.09.17

施設のリハビリで日常生活を取り戻す 諦めない専門ケア

高齢者施設で暮らす方々にとって、日常生活の自立は健康や尊厳に直結する重要な要素です。

しかし、年齢や病気、ケガの影響で「自分でできることが少なくなった」と感じる方も多くいます。

その中で、理学療法士による 施設でのリハビリ は、単なる運動や筋力維持にとどまらず、「日常生活を取り戻す」ための専門的サポートとして不可欠な役割を果たしています。

私は大学で理学療法学を教育・研究する立場から、施設入居者の生活の質を高めるリハビリの可能性を日々探求しています。施設でのリハビリは、利用者が諦めかけている日常動作を再び可能にし、自立した生活を支える大きな力になるのです。

 

集団リハビリでは足りない! 施設リハビリで解決できないこと

多くの施設では、入居者向けに集団での体操や歩く機会の提供が行われています。これは身体機能の低下を防ぐうえで重要です。

しかし、集団プログラムはどうしても画一的になりがちで、個々の入居者の細かなニーズに対応することは難しい場合があります。

例えば、

  •  ・ 椅子から自力で立ち上がるのが難しい方
  •  ・ トイレや洗面動作に補助が必要な方
  •  ・ バランスを崩しやすく歩行に不安を抱える方

こうした方々に対して、一律の運動メニューだけでは「日常生活を取り戻す」には十分ではありません。ここに、理学療法士による専門性が活きてきます

○諦めないリハビリを!理学療法士が提供する専門サポート

理学療法士は、解剖学や運動学、病態学に基づき、身体の状態を科学的に評価する専門職です。施設での個別リハビリでは、次のようなプロセスが行われます。

1.個別評価(アセスメント)

筋力、関節の動き、バランス能力、歩く力などを詳細に確認します。また、生活動作の観察や本人の希望を聞くことで、リハビリの目的を明確化します。

.目標設定

「立ち上がれるようになりたい」「トイレに自分で行きたい」といった本人の希望を尊重し、現実的かつ達成可能な目標を設定します。目標が具体的であるほど、モチベーションが高まり、成果が得やすくなります。

.個別プログラムの実施

評価と目標に基づき、筋力を支える運動や関節を柔軟に保つ運動、バランスを安定させる練習、歩行の補助などを組み合わせます。生活の中で実際に行う動作を繰り返し実施することで、日常生活に直結した機能を高めます。

4.定期的な再評価と調整

身体機能は日々変化します。定期的に見直しを行い、内容や負荷を調整することで、無理なく着実に進められるようサポートします。

○日常生活を取り戻すリハビリの具体例

施設での個別サポートでは、次のような取り組みが行われています。

  • 立ち上がる動作の支援:椅子から安全に立てるよう、太ももや腰の筋力を維持・向上させる。
  • 歩行のサポート:杖や歩行補助具を使いながら施設内の移動距離を少しずつ伸ばす。
  • バランス向上:片足立ちや台を使った安定動作で転倒のリスクを軽減。
  • 生活動作の練習(ADL):洗面、入浴、着替え、トイレなど、日常生活の自立に直結する動きを確認・補助。

こうした取り組みにより、施設入居者が「自分でできること」を増やすことができ、生活の質が向上します。

○教育・研究の視点から

大学での教育・研究の立場からも、施設でのリハビリは重要な学習・研究対象です。個別化されたサポートの効果を科学的に検証することで、エビデンスに基づいた介入方法を明らかにできます。学生には、単なる運動指導技術だけでなく、「生活を取り戻すために何を評価し、どのように支援するか」という視点を繰り返し伝えています。

また、リハビリの効果は身体機能だけでなく、心理的な面や生活意欲にも現れます。「自分でできる」という体験は尊厳の回復や気分の安定にもつながり、生活の質全体を底上げします。

◎理学療法士であなたの自立した生活を取り戻しましょう

施設でのリハビリは、「動けるようになること」を超えて、日常生活を取り戻すための大切な支援です。

個別の評価に基づき、目標に沿ったオーダーメイド型のサポートを提供することで、入居者は再び自分の力で動き、生活を楽しむことが可能になります。

理学療法士は、施設入居者が諦めかけていた日常生活の動作を再び可能にし、尊厳ある生活を支える専門家です。施設スタッフや家族と連携し、科学的根拠に基づいた個別サポートを実践することが、これからの高齢社会で求められる「諦めない専門ケア」の形だと考えています。