「最近物忘れが増えた」「やる気が出ない」「気分が沈みがち」こうした変化は、精神・心理的フレイルのサインかもしれません。しかし、適切な運動と脳を使う活動を組み合わせることで、認知機能と心の健康を維持・向上させることができます。
このプログラムは、理学療法士・公衆衛生専門家・医学博士の知識に基づき、身体運動と認知トレーニングを融合させた内容となっています。運動しながら脳を使うことで、日常生活での「ながら動作」の能力も高まり、転倒予防にもつながります。
○精神・心理的フレイル予防プログラムの特徴
運動と認知トレーニングの融合: 体を動かしながら脳を使う「デュアルタスク」により、認知機能と身体機能を同時に鍛えます。
科学的根拠に基づく内容: 有酸素運動が認知機能向上に効果的であること、運動が抗うつ効果を持つことなど、多くの研究で証明された方法を採用しています。
楽しみながら続けられる: ゲーム感覚で取り組める内容で、達成感を感じながら継続できます。
段階的なステップアップ: 簡単なレベルから始めて、徐々に難易度を上げていけるよう設計されています。
○プログラムを始める前に
体調チェック
- ・体調が良い日に行う
- ・めまいや強い疲労感があるときは中止
- ・気分が優れないときは無理をしない
環境の準備
- ・安全な空間を確保
- ・転倒防止のために周囲を片付ける
- ・水分補給の準備
心構え
- ・完璧を目指さない(間違えても気にしない)
- ・楽しむことを第一に
- ・できる範囲で行う
プログラム構成
このプログラムは、以下の3つの要素で構成されています。
- 1. 脳活性化ウォーミングアップ(5分)
- 2. デュアルタスク運動(10分)
- 3. 認知トレーニング+リラクゼーション(5分)
合計20分程度で、心と脳を総合的に鍛えます。
○第1部:脳活性化ウォーミングアップ(5分)
脳と体を目覚めさせる準備運動です。
1. リズム運動(2分)
その場足踏み+数え歌
- ・その場で足踏みをしながら、1から20まで数える
- ・慣れたら、3の倍数だけ手を叩く(3、6、9、12…)
- ・さらに慣れたら、後ろから数える(20、19、18…)
効果
- ・脳の覚醒
- ・リズム感の維持
- ・注意力の向上
ポイント
- ・一定のリズムを保つ
- ・間違えても笑って続ける
- ・楽しむことが大切
2. 指体操(2分)
グー・チョキ・パー運動
- ・右手でグー、左手でパーを同時に出す
- ・次に右手でパー、左手でグーを出す
- ・これを10回繰り返す
- ・慣れたら、グー・チョキ・パーを順番に出す(右手と左手で違う形)
効果
- ・脳の左右の連携強化
- ・注意力の向上
- ・手先の器用さ維持
応用編
- ・片手で太ももをトントン、もう片方で円を描く
- ・両方の動きを途中で入れ替える
3. 言葉探しゲーム(1分)
しりとり準備運動
- ・「あ」で始まる食べ物を5つ言う(リンゴ、あんぱん、アイス…)
- ・「か」で始まる動物を3つ言う
- ・季節ごとに変えてテーマを設定
効果
- ・言語機能の活性化
- ・記憶の引き出し練習
- ・脳の準備運動
○第2部:デュアルタスク運動(10分)
運動と認知課題を同時に行うことで、脳と体を同時に鍛えます。
4. ウォーキング+計算(3分)
基本編
- ・その場で足踏み、または室内を歩きながら実施
- ・100から7ずつ引いていく(100、93、86、79…)
- ・間違えても気にせず続ける
応用編
- ・3ずつ足していく(0、3、6、9、12…)
- ・曜日を逆から言う(日曜日、土曜日、金曜日…)
- ・月の名前を逆から言う
効果
- ・歩行中の認知機能向上(転倒予防)
- ・注意の分配能力向上
- ・ワーキングメモリーの強化
ポイント
- ・歩行のリズムを崩さない
- ・安全第一、転倒に注意
- ・壁や手すりのそばで行う
5. ステップ運動+記憶ゲーム(3分)
準備
- ・椅子の前に立つ
- ・安定した台(10cm程度の高さ)を準備(なければ床でOK)
実施方法
- ・右足→左足→右足→左足の順で台を昇降する
- ・同時に、動物の名前を順番に覚えて言う
- – 1回目:「イヌ」と言いながら昇降
- – 2回目:「イヌ、ネコ」と言いながら昇降
- – 3回目:「イヌ、ネコ、ウサギ」と言いながら昇降
- – どんどん増やしていく
応用編
- ・野菜の名前、都道府県名、昔の友人の名前などに変更
- ・覚えた言葉を逆から言う
効果
- ・下肢筋力強化
- ・短期記憶の訓練
- ・注意力の向上
6. 椅子立ち上がり+カテゴリー分類(2分)
実施方法
- ・椅子から立ち上がる→座るを繰り返す
- ・立ち上がるときに「食べ物」を言う
- ・座るときに「食べ物以外」を言う
- ・例:「リンゴ」(立つ)→「机」(座る)→「パン」(立つ)→「車」(座る)
応用編
- ・「生き物」と「生き物以外」
- ・「赤いもの」と「赤くないもの」
- ・テーマを自由に設定
効果
- ・下肢筋力強化
- ・カテゴリー分類能力(実行機能)の訓練
- ・柔軟な思考力の維持
7. バランス運動+しりとり(2分)
実施方法
- ・壁に手を添えて片足立ちをする
- ・片足立ちのまま、しりとりをする(声に出す)
- ・「リンゴ→ゴリラ→ラッパ→パン…」
- ・15秒ごとに足を入れ替える
簡単版
- ・両足を前後に開いて立つ(タンデム立位)
- ・この姿勢でしりとりをする
効果
- ・バランス能力向上(転倒予防)
- ・言語機能の活性化
- ・デュアルタスク能力の向上
ポイント
- ・安全のため、必ず壁や手すりのそばで
- ・バランスを崩したらすぐに両足をつく
- ・言葉が出てこなくても焦らない
○第3部:認知トレーニング+リラクゼーション(5分)
座って行う脳トレーニングと、心を落ち着かせるリラクゼーションです。
8. 記憶トレーニング(2分)
今日の回想
- ・椅子に座り、リラックスした姿勢で
- ・今朝の朝食を思い出し、詳しく説明する
- – 何を食べたか
- – どんな味だったか
- – 誰と食べたか
- – どんな気持ちだったか
- ・昨日の出来事を3つ思い出す
効果
- ・記憶の引き出し練習
- ・エピソード記憶の強化
- ・日常生活への注意力向上
応用編
- ・1週間前の出来事を思い出す
- ・季節の思い出を詳しく話す
9. イメージトレーニング(1分)
楽しい場面の想像
- ・目を閉じて、楽しかった旅行の場面を思い浮かべる
- ・五感を使って具体的にイメージする
- – 何が見えたか
- – どんな音が聞こえたか
- – どんな匂いがしたか
- – どんな気持ちだったか
効果
- ・視空間認知の訓練
- ・ポジティブな気分の醸成
- ・ストレス軽減
10. 深呼吸+感謝の時間(2分)
マインドフルネス呼吸
- ・楽な姿勢で座る
- ・鼻からゆっくり息を吸う(4秒)
- ・少し息を止める(2秒)
- ・口からゆっくり息を吐く(6秒)
- ・これを5回繰り返す
感謝の言葉
- ・今日感謝できることを3つ思い浮かべる
- ・心の中で「ありがとう」と唱える
効果
- ・副交感神経の活性化
- ・ストレス軽減
- ・ポジティブな気分の醸成
- ・抑うつ予防
◎心と脳の健康を守る
精神・心理的フレイル予防は、運動と脳を使う活動を組み合わせることで、より効果的になります。こういったプログラムを楽しみながら継続することで、認知機能と心の健康を守ることができます。
次回は、日常生活の中で認知活性化のためにできることをお伝えいたします。