脳卒中は予防可能な疾患ということをご存知ですか。
令和4年の厚生労働省「国民生活基礎調査」によれば、要介護者の原因第2位は「脳血管疾患(脳卒中)」で19.0%を占めています。脳卒中は、突然の片麻痺、言語障害、嚥下障害などを引き起こし、一瞬にして生活を一変させる恐ろしい疾患です。
しかし、重要な事実があります。国際的な研究によれば、脳卒中の約90%は予防可能な危険因子によって引き起こされることが明らかになっています¹。つまり、適切な対策により、脳卒中リスクを大幅に減らすことができるのです。
○脳卒中とは何か~2つのタイプを理解する~
認知機能と心の健康を維持・向上させるためには、適切な運動と脳を使う活動を組み合わせることが効果的であるため、体操に加えて、日常生活で以下の活動を取り入れると、さらに効果的です。
1.脳梗塞(約75%)
脳の血管が詰まることで、脳細胞に酸素と栄養が届かなくなり、脳細胞が壊死する状態です。原因は、
• アテローム血栓性:動脈硬化により血管が狭くなる
• 心原性:心臓でできた血栓が脳に飛ぶ(心房細動が主因)
• ラクナ梗塞:小さな血管が詰まる
2.脳出血(約20%)
脳の血管が破れて出血し、脳組織が圧迫される状態です。主な原因は高血圧です。
最大の危険因子、高血圧の管理
高血圧が脳卒中リスクを何倍にも高める
大規模な解析では、収縮期血圧が20mmHg上昇するごとに、脳卒中リスクが約2倍になることが示されています²。つまり、血圧140mmHgの人は、120mmHgの人に比べて脳卒中リスクが約2倍なのです。
血圧管理の目標値
日本高血圧学会のガイドラインでは、
• 75歳未満:収縮期血圧130mmHg未満
• 75歳以上:収縮期血圧140mmHg未満
• 糖尿病や腎臓病がある方:さらに厳格な管理
○血圧を下げる生活習慣
1.食塩摂取
1日6g以下に減らすことで、収縮期血圧が約5mmHg低下することが示されています³。
実践的な減塩方法:
• 醤油やソースは「かける」より「つける」
• 加工食品(ハム、ソーセージ、漬物)を控える
• だし汁の旨味を活用する
• 酢やレモン、香辛料で風味をつける
2.DASH食(高血圧予防食)
研究では、野菜、果物、低脂肪乳製品を多く摂り、飽和脂肪酸を控えるDASH食により、収縮期血圧が11mmHg低下したことが報告されています⁴。
3.適正体重の維持
体重を5kg減らすだけで、収縮期血圧が約5mmHg低下します。
4.運動習慣
有酸素運動により収縮期血圧が平均7mmHg低下することが示されています⁵。
推奨される運動:
• 週150分の中等度有酸素運動(ウォーキング、水泳など)
• 「ややきつい」と感じる程度の強度
○心房細動が脳梗塞リスクを5倍に
心房細動は、心臓の不規則な拍動により心臓内に血栓ができやすくなる不整脈です。研究では、心房細動がある人は脳梗塞リスクが約5倍高いことが示されています⁶。
早期発見の重要性
心房細動は自覚症状がない場合も多く、定期的な検診と脈拍チェックが重要です。動悸、息切れ、めまいなどの症状があれば、すぐに医療機関を受診しましょう。
診断されたら、抗凝固薬による治療で脳梗塞リスクを約60%減少させることができるとされています⁷。
○糖尿病の管理~血糖コントロールの重要性~
糖尿病が脳卒中リスクを2倍に
糖尿病患者は非糖尿病患者に比べて脳卒中リスクが約2倍高いことが報告されています⁸。高血糖が血管を傷つけ、動脈硬化を促進するためです。
血糖管理の目標
• HbA1c:7.0%未満(合併症がある場合は個別に設定)
• 食後血糖値:180mg/dL未満
○血糖コントロールのための生活習慣
1.食事療法
• 食物繊維を多く摂る(野菜から食べる「ベジファースト」)
• 精製された炭水化物を控え、全粒穀物を選ぶ
• ゆっくり食べる(早食いは血糖値を急上昇させる)
2.運動療法
食後の軽い運動が血糖値を効果的に下げることが示されています⁹。食後15〜30分の10〜15分程度の散歩が推奨されます。
3.体重管理
体重を5〜10%減らすだけで、血糖コントロールが大きく改善します。
○脂質異常症の管理
LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の管理
動脈硬化の主要な原因であるLDLコレステロールの管理は、脳卒中予防に不可欠です。研究では、スタチン(コレステロール低下薬)による治療が脳卒中リスクを約20%減少させることが示されています¹⁰。
目標値
• 一般的な目標:LDLコレステロール120mg/dL未満
• 動脈硬化性疾患がある方:100mg/dL未満、さらに厳格には70mg/dL未満
食事での対策
• 飽和脂肪酸(肉の脂、バター)を控える
• トランス脂肪酸(マーガリン、ショートニング)を避ける
• 不飽和脂肪酸(魚、オリーブオイル、ナッツ)を摂る
• 食物繊維(野菜、海藻、きのこ)を十分に摂る
○禁煙~最も重要な予防策の一つ~
喫煙が脳卒中リスクを2〜4倍に
喫煙者は非喫煙者に比べて脳卒中リスクが2〜4倍高いことが示されています¹¹。喫煙は血管を収縮させ、血液を固まりやすくし、動脈硬化を促進します。
禁煙の効果
禁煙すると、脳卒中リスクは直ちに低下し始めます:
• 2年後:リスクが大幅に低下
• 5年後:非喫煙者とほぼ同レベルに
禁煙外来の利用、ニコチン置換療法など、専門的なサポートを受けることで成功率が高まります。
○適度な飲酒~過度の飲酒は危険~
J字カーブ
研究では、アルコール摂取と脳卒中リスクの関係は「J字カーブ」を描くことが示されています¹²。適度な飲酒(1日1合程度)は脳梗塞リスクをわずかに低下させる可能性がありますが、過度の飲酒(1日3合以上)は脳出血リスクを大きく高めます。
推奨される飲酒量
• 男性:1日1合(日本酒換算)まで
• 女性:1日0.5合まで
• 週に2日は休肝日を設ける
○運動習慣~脳卒中予防の強力な武器~
運動が脳卒中リスクを25%減少
定期的な身体活動により脳卒中リスクが約25%減少することが報告されています¹³。運動は、血圧を下げ、血糖値を改善し、体重を管理し、HDLコレステロール(善玉)を増やすという多面的な効果があります。
推奨される運動プログラム
有酸素運動
• 週150分の中等度運動(ウォーキング、水泳、サイクリング)
• または週75分の高強度運動(ジョギング、エアロビクス)
• 10分以上の運動を複数回に分けてもOK
筋力トレーニング
• 週2〜3回、主要な筋肉群を鍛える
• 筋肉量の維持は代謝を高め、血糖管理にも有効
安全に運動するために
既に高血圧や心疾患がある方は、運動を始める前に主治医に相談しましょう。理学療法士による個別評価と運動処方により、安全で効果的な運動が可能になります。
ストレス管理
慢性ストレスが脳卒中リスクを増加
研究では、慢性的なストレスが高血圧、心房細動、脳卒中のリスクを高めることが示されています¹⁴。
ストレス管理の方法
• 十分な睡眠(7〜8時間)
• リラクゼーション技法(深呼吸、瞑想、ヨガ)
• 趣味や楽しみの時間を持つ
• 人との交流を大切にする
• 適度な運動
定期検診の重要性
「サイレントキラー」を早期発見
高血圧は「サイレントキラー(静かな殺人者)」と呼ばれ、自覚症状がないまま進行します。定期的な検診で血圧、血糖値、脂質、心電図などをチェックすることが重要です。
○専門家による包括的サポート
脳卒中予防には、生活習慣の多面的な改善が必要です。理学療法士による運動指導、管理栄養士による食事指導、医師による薬物療法を統合したプログラムが最も効果的です。
特に、既に高血圧や糖尿病などの危険因子がある方は、専門家の評価のもとで安全に運動を始めることが重要です。自費リハビリテーションサービスでは、医学的知識に基づいた個別プログラムと、継続的なモニタリングを提供できます。
○脳卒中は予防可能
脳卒中の90%は予防可能です。
血圧、血糖、脂質の管理、禁煙、適度な飲酒、運動習慣、ストレス管理―これらの生活習慣の改善が、あなたを脳卒中から守ります。
重要なのは「今から始める」ことです。
脳卒中は突然起こるように見えますが、実は何年、何十年もかけて進行した動脈硬化の結果です。今日の選択が、明日の健康を決めるのです。
専門家のサポートを受けながら、あなたに最適な脳卒中予防プログラムを始めてみませんか。
refarence
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