Column コラム

骨折・転倒を予防する~要介護にならないためにできること~

「少し転びそうになっただけだから大丈夫」そう言っていた親が、転倒をきっかけに一気に生活が変わってしまう——実は珍しいことではありません。
高齢者の骨折や要介護状態の多くは、突然起きる病気ではなく、日常の転倒から始まっています。つまずきやふらつきは、すでに身体から出ている危険信号かもしれません。

転倒は運ではなく、予測し、防ぐことができます。今気づいて行動できるかどうかが、5年後、10年後の親の生活を左右します。
後悔しないために、今できる転倒予防について知っておきませんか。

転倒が介護への入り口になる

令和4年の厚生労働省「国民生活基礎調査」によれば、要介護者の原因第3位は「骨折・転倒」で13.0%、要支援者では第3位で16.1%を占めています。特に注目すべきは、要支援者では「関節疾患」(19.3%)、「高齢による衰弱」(17.4%)に次いで高い割合であることです。

転倒は「たまたま運が悪かった」という偶然の出来事ではありません。研究によれば、転倒の約90%は予測可能な危険因子によって引き起こされており、適切な対策により転倒リスクを大幅に減らすことができます¹。

転倒の深刻な影響~一度の転倒が人生を変える~

大腿骨頸部骨折の恐ろしさ

高齢者の転倒で最も深刻なのが、大腿骨頸部骨折(太ももの付け根の骨折)です。研究では、大腿骨頸部骨折後、約50%の人が元の生活に戻れず、約20%が1年以内に死亡することが報告されています²。

骨折が介護につながる悪循環

  •  ・骨折により入院
  •  ・手術と安静による筋力低下(サルコペニア進行)
  •  ・退院後も痛みや不安から活動量が減少
  •  ・さらなる筋力・バランス能力の低下
  •  ・要介護状態へ

転倒恐怖症候群

研究では、一度転倒を経験すると、約70%の高齢者が「また転ぶのではないか」という恐怖を持つようになることが示されています³。この恐怖から活動を制限し、さらに体力が落ちるという悪循環に陥ります。

転倒の危険因子を知る

内的要因(体の問題)

筋力低下

解析では、下肢筋力低下が転倒リスクを約2倍に高めることが示されています⁴。特に重要なのは
  ・大腿四頭筋(太もも前面の筋肉)
  ・臀筋(お尻の筋肉)
  ・下腿三頭筋(ふくらはぎの筋肉)

バランス能力の低下

片足立ちが5秒未満の方は、転倒リスクが約3倍高いことが報告されています。

歩行速度の低下

研究では、歩行速度が1.0m/秒未満(横断歩道を青信号で渡りきれない速度)は、転倒の重要な予測因子であることが示されています⁵。

視力低下

視力低下、特に深度知覚(奥行きを見る能力)の低下が転倒リスクを高めることが明らかになっています⁶。

薬剤の影響

睡眠薬、抗不安薬、降圧薬、抗うつ薬などが転倒リスクを高めることが報告されています⁷。特に5種類以上の薬を服用している方(ポリファーマシー)は要注意です。

外的要因(環境の問題)

実は、転倒の約60%は家の中で起こっています。いますぐチェックしてみましょう。

危険個所チェックリスト

  • 段差(玄関、敷居、階段)
  • 滑りやすい床(浴室、脱衣所、廊下)
  • コードド類(電気コード、延長コードなど)
  • 照明不足(夜間のトイレ、階段)
  • 不安定な家具、めくれた絨毯・マット

○筋力トレーニング~最も効果的な転倒予防策~

下肢筋力強化の重要性
バランストレーニングと筋力トレーニングを組み合わせた運動プログラムが、転倒リスクを約34%減少させることが示されています⁸。

効果的な筋力トレーニング

1. スクワット(椅子からの立ち上がり運動)

最も重要な運動:大腿四頭筋、臀筋を同時に鍛える・・・10回×2〜3セットを週2〜3回

  • ・椅子に浅く座る
  • ・両手を胸の前でクロス
  • ・ゆっくり立ち上がり、2秒静止
  • ・ゆっくり座る

2.かかと上げ運動

ふくらはぎの筋肉を鍛える・・・15回×2〜3セットを週2〜3回

  • ・壁や椅子の背もたれに手を添える
  • ・両足でかかとを上げ、2秒キープ
  • ・ゆっくり下ろす

3.つま先上げ運動

すねの筋肉を鍛える(つまずき防止)・・・15回×2〜3セットを週2〜3回

  • ・椅子に座る
  • ・つま先を上に持ち上げ、2秒キープ
  • ・ゆっくり下ろす

バランストレーニング(静的バランスと動的バランス

片足立ち

基本的なバランス能力を鍛える・・・左右各30〜60秒を1日2〜3回

  • ・壁や手すりに手を添える
  • ・片足を床から5cm程度浮かせる
  • ・慣れたら指先だけで支える

片足立ちトレーニングにより、バランス能力が改善し、転倒リスクが減少することがわかっています⁹。

タンデム立位(継ぎ足立ち)

より高度なバランストレーニング・・・10〜30秒を1日2〜3回

  • ・両足を前後に一直線に並べる(かかととつま先をつける)
  • ・壁に手を添えて実施

つま先立歩行

動的バランス能力を鍛える・・・前後5歩ずつを1日2〜3回

  • ・壁に沿って、つま先立ちで歩く
  • ・小刻みに、ゆっくりと

骨を強くする~骨粗鬆症対策~

骨粗鬆症が骨折リスクを劇的に高める
骨粗鬆症は、骨の密度が低下し、骨がもろくなる病気です。Johnell らの研究では、骨粗鬆症がある女性は、ない女性に比べて骨折リスクが約4〜5倍高いことが報告されています¹⁰。

骨粗鬆症の診断

65歳以上の女性、70歳以上の男性は、骨密度測定を受けることが推奨されます。また、以下に該当する方は年齢に関わらず検査をお勧めします。

危険個所チェックリスト

  • 骨折歴がある
  • 家族に骨粗鬆症・骨折歴がある
  • 体重が50kg未満
  • ステロイド薬を長期服用
  • 喫煙、過度の飲酒

骨を強くする生活習慣

カルシウム摂取
  ・1日700〜800mgが目標
  ・牛乳、ヨーグルト、チーズ、小魚、大豆製品、緑黄色野菜
ビタミンD摂取・・・研究では、ビタミンD摂取が転倒リスクを約20%減少させることが示されています¹¹。
  ・魚(サケ、サバ、イワシ)、きのこ類
  ・日光浴(1日15〜30分)
ビタミンK摂取
  ・納豆、ほうれん草、小松菜、ブロッコリー
運動・・・骨は負荷がかかることで強くなります。ウォーキング、ジョギング、階段昇降などの荷重運動が効果的です。
薬物療法・・・骨粗鬆症と診断されたら、ビスホスホネート製剤などの薬物療法が推奨されます。

環境整備~家の中を安全に~

転倒予防のための住環境改善
専門家による住環境評価と改善により、転倒リスクが約26%減少することが示されています¹²。

危険個所チェックリスト

  • 照明:すべての部屋、廊下、階段に十分な明るさ
  • 浴室:滑り止めマット、手すり、シャワーチェア
  • トイレ:手すり、夜間灯
  • 床:コード類を片付ける、絨毯・マットを固定
  • 玄関:手すり、段差を目立たせる
  • 廊下:障害物を置かない、十分な幅

適切な履物のチェック

  • 避けるべき:スリッパ、底の滑りやすい靴、かかとの固定されていない靴
  • 推奨される:かかとが固定され、底に滑り止めがある靴

○転倒予防~デュアルタスクトレーニング

「ながら動作」の能力を高める
研究では、運動と認知課題を同時に行うデュアルタスクトレーニングが、単独の運動よりも転倒予防に効果的であることが示されています¹⁵。

日常生活では、歩きながら考える、話しながら歩くなど、二つのことを同時に行う場面が多くあります。この能力が低下すると転倒リスクが高まります。

  • ・歩きながら100から7ずつ引いていく
  • ・ステップ運動をしながらしりとりをする
  • ・バランス運動をしながら曜日を逆から言う

専門家による包括的評価の重要性

転倒予防には、筋力、バランス、歩行、視力、薬剤、住環境など多面的な評価と対策が必要です。

理学療法士は、あなたの転倒リスクを詳細に評価し、個別の運動プログラムを作成できます。研究では専門家による個別化された運動プログラムが、集団指導よりも転倒予防に効果的であることが示されています¹⁶。

特に、既に転倒経験がある方、バランスに不安がある方、筋力低下を感じている方には、自費リハビリテーションサービスでの専門的評価と個別指導をお勧めします。

○運動習慣で転倒予防

転倒・骨折は決して「運」の問題ではありません。筋力、バランス能力、骨の強さ、環境、視力、薬剤―これらの要因を改善することで、転倒リスクを大幅に減らすことができます。

特に筋力トレーニングとバランストレーニングの組み合わせは、科学的に最も効果が証明されている方法です。週2〜3回、1回20〜30分の運動習慣が、あなたを転倒から守ります。

「一度も転んだことがない」という方も油断は禁物です。加齢とともに筋力とバランス能力は確実に低下します。今から予防を始めることが、5年後、10年後の安全な生活を守るのです。

reference:

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  2. Magaziner J, et al. Recovery from hip fracture in eight areas of function. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2000;55(9):M498-507.
  3. Scheffer AC, et al. Fear of falling: measurement strategy, prevalence, risk factors and consequences among older persons. Age Ageing. 2008;37(1):19-24.
  4. Moreland JD, Richardson JA, Goldsmith CH, Clase CM. Muscle weakness and falls in older adults: a systematic review and meta-analysis. J Am Geriatr Soc. 2004;52(7):1121-1129.
  5. Montero-Odasso M, et al. Gait velocity as a single predictor of adverse events in healthy seniors aged 75 years and older. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2005;60(10):1304-1309.
  6. Lord SR, et al. Visual risk factors for falls in older people. J Am Geriatr Soc. 2001;49(5):508-515.
  7. Woolcott JC, et al. Meta-analysis of the impact of 9 medication classes on falls in elderly persons. Arch Intern Med. 2009;169(21):1952-1960.
  8. Sherrington C, et al. Exercise to prevent falls in older adults: an updated systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2017;51(24):1750-1758.
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  11. Bischoff-Ferrari HA, et al. Fall prevention with supplemental and active forms of vitamin D: a meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ. 2009;339:b3692.
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