Column コラム

フレイル予防は何歳から始めればいいの?~「今日が一番早い日」 ~

「フレイルって、お年寄りの話でしょ?まだ自分には関係ない」
こんなふうに思っている方は多いのではないでしょうか。その考え方が、一番危ないのです。
今回は、「フレイル予防はいつから始めればいいか」について、確認されたデータをもとにお伝えします。

○「筋肉貯金」の話

突然ですが、老後のためにお金を貯めていますか?「若いうちからコツコツ貯めておいた方がいい」というのは、誰もが知っていることですよね。実は、筋肉も全く同じなのです。

若いうちにしっかり体を動かして筋肉を蓄えておくことを、私は「筋肉貯金」と呼んでいます。この貯金が多ければ多いほど、年を取って少しずつ筋肉が減っていっても、「底をつく」まで時間がかかります。
逆に若い頃に運動不足が続いて筋肉貯金が少ないと、思いのほか早く足腰が弱ってしまう。これが、フレイル予防を早めに始めるべき最大の理由です。

○筋肉は40歳前後から「こっそり」減り始めている

「まだ40代だから大丈夫」と思っていませんか?
国立長寿医療研究センターの健康長寿ネットによれば、筋肉(筋力)は40歳頃から少しずつ減少し、70歳を超えた頃から自覚症状が現れてくるとされています※1。また、日本老年医学会の資料では、50歳以降は毎年1〜2%程度筋肉量が減少すると報告されています※2。

さらに、東京都健康長寿医療センター研究所のデータでは、筋肉量は20代をピークに10年間で男性は約2kg、女性は約1kgずつ減少し、80歳以上では男性の約3割、女性の約半数がサルコペニア(加齢性筋肉減少症)に該当するとされています※3。

「1〜2%なんて大したことない」と思うかもしれません。でも50歳から毎年1%ずつ減り続ければ、70歳には20%の損失です。気づかないうちに進む「静かな衰退」、それがフレイルへの道なのです。

○フレイルは「高齢者だけの問題」ではない

フレイルの有症率を年齢別に見ると、その実態がよくわかります。
国立長寿医療研究センターによれば、日本のフレイルの有症率は65歳以上で7.4%ですが、75〜79歳では10.0%、80〜84歳では20.4%、85歳以上では35.1%に上昇するとされています※4。

つまり85歳以上では3人に1人以上がフレイル状態。しかも同センターの研究では、フレイルと判定されなくても、男性の約50%、女性の約55%がフレイルの一歩手前「プレフレイル」に該当することが示されています※5。

プレフレイルとは、フレイルの診断基準のうち1〜2項目に当てはまる状態。「まだ元気」と思っている方の多くが、すでにその入り口に立っている可能性があるのです。

○「高齢期のフレイル予防」には、中年期の食習慣が関わっていた

2025年10月、国立長寿医療研究センターは重要な研究成果を発表しました。「高齢期の身体的フレイルの予防には、中年期からの欠食習慣の改善が重要である可能性がある」というものです※6。
具体的には、中年期に朝食を欠かさず食べていた人ほど、高齢期にフレイルになりにくい傾向が確認されました。これは、フレイル予防が高齢になってから始めるものではなく、中年期・若い頃の生活習慣が高齢期の体を作っていることを示す根拠の一つです。
毎朝きちんと食べる。たったそれだけのことが、数十年後の健康につながっているのです。

○年代別に意識したいポイント

40〜50代:「筋肉貯金を積み立てる時期」

この年代の大切なことは、生活習慣病対策と並行して、筋肉を維持する習慣をつけることです。
スクワットや速歩きなど、筋肉に負荷をかける運動を週に数回行いましょう。食事面では、タンパク質(肉・魚・卵・豆腐など)の摂取を意識してください。
厚生労働省のe-ヘルスネットでは、サルコペニア予防のためにタンパク質は1日に適正体重1kgあたり1.0g以上の摂取が有効な可能性があると記載されています※7。

60〜65代:「食事と運動の考え方を切り替える時期」

定年退職など生活が変化するこの時期、「食べすぎないように」という中年期の意識を見直すことが大切です。
国立長寿医療研究センターの報告では、高齢者では低栄養またはそのリスクがある者が約4割いるとされており※8、タンパク質不足は筋肉の衰えを加速させます。
また退職後に外出や交流が減ると社会的フレイルが進みやすいため、地域活動への参加を意識しましょう。

70代以降:「今からでも必ず効果が出る時期」

「もう遅い」と諦めないでください。国立長寿医療研究センターは、「フレイルになったとしても、運動などによって心身の状態を改善することが十分に可能であることが、近年の研究から明らかになってきている」と明記しています※5。フレイルは可逆的です。今日からの取り組みが、確実に体に届きます。

◎「何歳から」ではなく「今日から」が正解

長年の臨床経験から、「もっと早く運動を始めておけばよかった」とおっしゃる方をたくさん見てきました。でも同時に、70代・80代からリハビリを始めて、ご自身の足でまた歩けるようになった方も、数え切れないほど見てきました。

人間の体は、何歳でも変化できます。フレイル予防を始める最適な時期は、「今日」 です。

40代の人も、60代の人も、80代の人も――「今の自分にできること」から始めることが大切です。毎日少し歩く、朝ごはんをきちんと食べる、友人に電話をかける。そんな小さな一歩が、10年後・20年後の自分を守ります。「まだ早い」「もう遅い」という言葉に惑わされないでください。

参考文献・出典
※1 国立長寿医療研究センター 健康長寿ネット「サルコペニアとは」
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/sarcopenia-about.html
※2 日本老年医学会雑誌 52巻4号(2015)「サルコペニア」関連記事
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/clinical_practice_52_4_343.pdf
※3 大正健康ナビ「サルコペニア(筋肉減少症)」(東京都健康長寿医療センター研究所データより)
https://www.taisho-kenko.com/disease/547/
※4 国立長寿医療研究センター プレスリリース「より多くの健康情報を入手することがフレイル予防の糸口に」(2025年9月16日)
https://www.ncgg.go.jp/ri/report/20250916.html
※5 国立長寿医療研究センター「フレイルに気をつけて」(NILS-LSA第7次調査データより)
https://www.ncgg.go.jp/ri/advice/27.html
※6 GemMed「高齢期の身体的フレイル予防には『中年期からの欠食習慣改善』が重要」(国立長寿医療研究センター発表、2025年10月)
https://gemmed.ghc-j.com/?p=70223
※7 厚生労働省 e-ヘルスネット「サルコペニア」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/exercise/ys-087
※8 医薬産業政策研究所「フレイルの最新動向について」(国立長寿医療研究センター「介護予防ガイド実践・エビデンス編」引用)
https://www.jpma.or.jp/opir/news/066/09.html


個別の運動・食事については、かかりつけ医や地域の専門家にご相談ください。