Column コラム

高齢による衰弱を予防する~要介護にならないためにできる事~

高齢になったら衰弱していくのは仕方がないー。その諦め、危険です。
今回は衰弱とはなにか、フレイル、サルコペニアについて、また予防のための運動、栄養、睡眠、認知機能や口腔機能について詳しく解説します。

「高齢による衰弱」とは何か

令和4年の厚生労働省「国民生活基礎調査」によれば、要支援者の原因第2位は「高齢による衰弱」で17.4%を占めています。この「衰弱」こそ、フレイル・サルコペニアの概念そのものです。

重要なのは、「年だから仕方ない」という諦めが最も危険だということです。研究では、フレイル状態にある高齢者でも、適切な介入により約半数が改善することが示されています¹。つまり、衰弱は「予防可能」であり、「改善可能」なのです。

フレイルとサルコペニア~衰弱の正体~

フレイルの診断基準

以下の5項目のうち3つ以上に該当するとフレイル、1〜2つはプレフレイル(予備軍)です²。

フレイルチェックリスト

  • 1. 体重減少:意図しない体重減少(6ヶ月で2〜3kg以上)
  • 2. 疲労感:「何をしても疲れる」と感じる
  • 3. 筋力低下:握力低下(男性26kg未満、女性18kg未満)
  • 4. 歩行速度低下:通常歩行で1.0m/秒未満
  • 5. 身体活動量低下:軽い運動もほとんどしない

サルコペニアの診断

国際的な基準
筋力低下(スクリーニング)
 • 握力:男性27kg未満、女性16kg未満
 • 椅子立ち上がりテスト:5回に15秒以上かかる
筋肉量減少(確定診断): 体組成計やCT、MRIで測定
身体機能低下(重症度判定): 歩行速度0.8m/秒未満

○なぜ衰弱が起こるのか

加齢に伴う変化

  • 40歳以降、筋肉量は10年で約8%減少⁴
  • 筋力はさらに速く低下(筋肉量低下の約1.5倍の速度)
  • タンパク質合成能力の低下
  • 食欲低下による栄養不足
  • 活動量減少による廃用(使わないことによる機能低下)
  • ホルモン変化(成長ホルモン、性ホルモンの減少)

○栄養戦略~たんぱく質が筋肉を作る~

たんぱく質摂取の重要性
国際的な推奨では、高齢者は体重1kgあたり1.0〜1.2gのたんぱく質が必要とされています⁵。これは若年者(0.8g/kg)よりも多い量です。
体重60kgの方なら、1日60〜72gのたんぱく質が必要です。

効果的なたんぱく質摂取法
1. 毎食均等に摂る
研究では、1日のたんぱく質を3食に均等に分けて摂ることが、朝少なく夕食に多く摂るよりも筋肉合成に効果的であることが示されています⁶。

理想的な配分
• 朝食:20〜25g   
• 昼食:20〜25g 
• 夕食:20〜25g

2.運動後30分以内に摂る
運動後は筋肉へのたんぱく質取り込みが高まります。
運動後30分以内にたんぱく質を摂ることで、筋肉合成が促進されます。

3.質の良いたんぱく質を選ぶ

必須アミノ酸、特にロイシンが豊富な食品   
• 肉類(鶏肉、豚肉、牛肉)
• 魚類(サケ、マグロ、サバ)
• 卵
• 乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズ)
• 大豆製品(豆腐、納豆)

たんぱく質が豊富な食品の目安        
• 鶏むね肉100g:約23g
• 卵1個:約6g
• 納豆1パック:約7g
• 牛乳200ml:約7g
• 木綿豆腐150g(半丁):約10g

ビタミンDも重要
解析では、ビタミンDが筋力維持に重要であることが示されています⁷。

摂取方法
• 魚(サケ、サバ、イワシ)          
• きのこ類
• 日光浴(1日15〜30分)
• 必要に応じてサプリメント

○運動戦略~筋肉に負荷をかける~

レジスタンストレーニングの必須性
解析では、高齢者のレジスタンストレーニング(筋力トレーニング)により、筋力が平均29%向上することが報告されています⁸。
さらに、古典的研究では、90歳以上でも筋力が174%向上したという驚異的な結果が示されています⁹。

効果的な筋力トレーニングの原則

1.十分な負荷

米国スポーツ医学会(ACSM)のガイドライン¹⁰:
 • 負荷:最大筋力の60〜80%(8〜12回で限界となる重さ)
 • 回数:8〜12回×2〜3セット
 • 頻度:週2〜3回
 • 休息:運動日の間に1〜2日
「ややきつい」と感じる程度の負荷が必要です。軽すぎる負荷では効果が限定的です。

2.大きな筋肉群を優先

特に下肢の筋肉:
 • 大腿四頭筋(太もも前面)
 • 臀筋(お尻)
 • ハムストリングス(太もも裏面)
 • 下腿三頭筋(ふくらはぎ)

具体的な運動プログラム

基本メニュー(週2〜3回)
1.スクワット

  • 10〜15回×3セット
  • 慣れたら、ペットボトルなどで負荷を追加

2.かかと上げ運動

  • 15回×3セット
  • 慣れたら片足で実施

3.椅子立ち座り運動

  • 10回×3セット
  • 慣れたら手を使わずに実施

4.壁腕立て伏せ

  • 10回×3セット
  • 上肢と胸部の筋力強化

5.腹筋運動

  • 椅子に座って上体を後ろに倒す
  • 10回×3セット

有酸素運動も組み合わせる
筋力トレーニングに加えて、有酸素運動も重要です。

  • ウォーキング:週150分(1日20〜30分を週5日)
  • 水泳、サイクリングも効果的

研究では、有酸素運動とレジスタンストレーニングの組み合わせが、単独よりもフレイル改善に効果的であることが示されています¹¹。

○社会参加~孤立が衰弱を加速させる~

社会的フレイルとの関連
日本での研究では、社会的に孤立している高齢者は、そうでない高齢者に比べてフレイルになるリスクが約1.5倍高いことが示されています¹²。

社会参加が衰弱を防ぐ理由:

  • 外出により身体活動量が増える
  • 人との交流が認知機能を刺激する
  • 食事を共にすることで栄養状態が改善
  • 生きがい・役割があることが意欲を維持
  • うつ予防

効果的な社会参加

  • 趣味のサークル、ボランティア活動
  • 地域の体操教室、運動グループ
  • 友人との定期的な交流
  • 孫や若い世代との交流
  • 仕事やアルバイト

多疾患の管理~複数の慢性疾患が衰弱を促進~

多疾患とフレイルの悪循環
研究では、慢性疾患の数が増えるほどフレイルのリスクが高まることが示されています¹³。

よく見られる組み合わせ:

  • 高血圧+糖尿病+脂質異常症
  • 心疾患+慢性腎臓病
  • COPD(慢性閉塞性肺疾患)+心疾患
  • 変形性関節症+骨粗鬆症

疾患管理のポイント
1.定期受診の継続
「調子が良いから」と受診を中断しないこと。

2.服薬管理
ポリファーマシー(多剤併用)に注意。
5種類以上の薬を服用している場合は、主治医と相談して見直しを。

3.疾患ごとの運動制限を理解
心疾患、呼吸器疾患などがある場合、主治医や理学療法士に相談して安全な運動を。

○認知機能の維持~体と脳は表裏一体~

身体的フレイルと認知的フレイルの併存
研究では、身体的フレイルと認知機能低下が併存すると、要介護リスクが著しく高まることが示されています¹⁴。

認知機能維持のために
 • 有酸素運動(脳への血流改善)
 • デュアルタスク(運動しながら脳を使う)
 • 社会参加(会話が最高の認知トレーニング)
 • 知的活動(読書、パズル、新しい学習)

○口腔機能の維持~オーラルフレイル~

噛む力と飲み込む力の低下
研究では、口腔機能の低下(オーラルフレイル)がフレイルの前段階であることが示されています¹⁵。

オーラルフレイルのサイン:

  • 硬いものが噛めなくなった
  • むせることが増えた
  • 口の中が乾く
  • 滑舌が悪くなった

予防のために

  • 定期的な歯科受診
  • 歯磨き、口腔ケアの徹底
  • 口の体操(パタカラ体操など)
  • よく噛んで食べる習慣

○睡眠の質の確保~睡眠とフレイルの関連~

研究では、睡眠の質が悪いことがフレイルのリスク要因であることが示されています¹⁶。

良質な睡眠のために:

  • 7〜8時間の睡眠時間確保
  • 規則正しい就寝・起床時刻
  • 日中の適度な運動
  • 就寝前のリラックス習慣
  • 寝室環境の整備

○包括的アプローチの重要性

多面的介入プログラム
研究では、運動・栄養・社会参加を組み合わせた多面的介入プログラムが、単独介入よりもフレイル改善に効果的であることが示されています¹⁷。

重要なこと

  • 運動だけでは不十分)
  • 栄養だけでは不十分
  • 運動+栄養+社会参加+疾患管理の統合的アプローチ

専門家による個別プログラム
理学療法士・管理栄養士・医師など多職種による包括的評価と個別プログラムが最も効果的です。

自費リハビリテーションサービスの価値
 • 包括的な身体機能・栄養状態の評価
 • 個別の運動・栄養プログラム作成
 • 継続的なモニタリングと調整
 • 疾患を考慮した安全な運動指導
 • 生活全体を見据えたサポート

早期介入の重要性~「予防のゴールデンタイム」~
プレフレイル段階での介入
研究では、フレイル予備軍(プレフレイル)の段階での早期介入が、要介護予防に最も効果的であることが示されています¹⁸。
「少し疲れやすくなった」 「筋力が落ちた気がする」 「体重が減った」、これらのサインを見逃さず、早めに対策を始めることが重要です。

◎衰弱は予防、改善ができる

「高齢による衰弱」は、決して避けられない運命ではありません。適切な栄養(特にたんぱく質)、十分な負荷の筋力トレーニング、有酸素運動、社会参加―これらを組み合わせることで、何歳からでも衰弱を予防し、改善することができます。

~重要なこと~
 ・早期発見:わずかな変化に気づく
 ・早期介入:「まだ大丈夫」ではなく「今から始める」
 ・継続的サポート:専門家と一緒に続ける
 ・包括的アプローチ:運動、栄養、社会参加を統合

90歳でも筋力は向上します。あきらめる必要は全くありません。今日から始める小さな一歩が、5年後、10年後の自立した生活を守ります。
専門家のサポートを受けながら、あなたに最適なフレイル予防・改善プログラムを始めてみませんか。いつまでも自分らしく、活動的な毎日を送るために。

reference:

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