コラム 2025.12.06

社会的フレイルを防ぐ~人とのつながりが健康寿命を延ばす~

「最近、外出する機会が減った」「一日中誰とも話さない日がある」「友人との連絡が途絶えがちになった」。

こうした変化を、単なる生活スタイルの問題だと考えていませんか。実は、これらは「社会的フレイル」という深刻な健康リスクのサインかもしれません。

フレイルには、身体的フレイル、精神・心理的フレイル、そして社会的フレイルの3つの側面があります。

中でも社会的フレイルは最も見過ごされやすく、しかし健康に重大な影響を及ぼすものです。今回は理学療法士の視点から、社会的フレイルについて詳しく解説します。

○社会的フレイルとは

社会的フレイルとは、社会とのつながりが希薄になり、孤立・孤独を感じる状態を指します。具体的には、家族や友人との交流が減少する、地域活動に参加しなくなる、社会的な役割を失う、孤独感を抱えるといった状態が該当します。

重要なのは、社会的フレイルは単なる「一人暮らし」や「人付き合いが少ない」ということではないということです。周囲に人がいても孤独を感じることがありますし、逆に一人暮らしでも豊かな社会的つながりを持っている人もいます

○社会的フレイルの特徴

社会的フレイルには、大きく分けて2つの側面があります。

構造的側面(客観的孤立):

これは社会的ネットワークの量的な側面を指します。家族や友人との接触頻度、地域活動への参加、社会的役割の有無などが該当します。独居、配偶者との死別、友人の減少、社会活動への不参加などが具体的な指標となります。

機能的側面(主観的孤独):

これは社会的関係の質的な側面、つまり孤独感や疎外感といった主観的な体験を指します。周囲に人がいても「理解されていない」「支えがない」と感じる状態も、社会的フレイルの重要な要素です。

重要なのは、独居=孤立ではなく、周囲に人がいても孤独を感じることがあるという点です。質の高い人間関係こそが、健康維持に重要な役割を果たします。

○社会的フレイルを引き起こす要因

ライフイベントによる変化:

退職による職場での人間関係の喪失、配偶者や友人との死別、子どもの独立、引っ越しなどは、社会的ネットワークを大きく変化させます。特に男性は、退職後に社会とのつながりを失いやすい傾向があります。

身体機能の低下:

歩行困難、慢性疾患、聴力低下などの身体的問題は、外出を困難にし、社会参加の障壁となります。「人に迷惑をかけたくない」という心理も、社会的引きこもりを促進します。

精神的要因:

抑うつ、不安、自信喪失などは、社会的活動への参加意欲を低下させます。「話が合わない」「場違いな気がする」という思い込みも、参加を妨げる要因となります。

経済的困窮:

経済的な問題は、趣味活動や社交活動への参加を制限し、社会的孤立を深刻化させます。「お金がかかる」という理由で、外出や交流を避けるようになります。

社会環境の変化:

核家族化、地域コミュニティの希薄化、デジタル化の進展など、社会構造の変化も社会的フレイルを助長しています。特に高度成長期に都市部へ移住した世代は、地元とのつながりを失っている場合が多く見られます。

社会的フレイルが健康に及ぼす影響

死亡率の上昇:

大規模な疫学研究により、社会的孤立は全死因死亡率を1.5〜2倍上昇させることが示されています。これは1日15本の喫煙に相当する影響とも言われています。

心血管疾患のリスク:

孤独感は、心筋梗塞や脳卒中のリスクを約30%上昇させます。これは慢性的なストレス反応による血圧上昇、炎症反応の増加、免疫機能の低下などが関与していると考えられています。

認知機能の低下:

社会的交流の少ない人は、認知症発症リスクが約1.5倍高くなることが報告されています。会話や社会的相互作用は、脳を刺激し、認知機能維持に重要な役割を果たします。

精神的健康への影響:

社会的孤立は、抑うつ、不安障害のリスクを大きく高めます。孤独感そのものが強いストレスとなり、精神的健康を蝕みます。

身体機能の低下:

社会参加が減ると、身体活動量も減少します。これが筋力低下、体力低下を招き、身体的フレイルへと進行します。また、栄養状態の悪化(「一人だと食事を作る気がしない」)も問題となります。

医療費の増大:

社会的に孤立している高齢者は、医療機関の受診回数が多く、入院期間も長くなる傾向があります。これは個人の経済的負担だけでなく、社会全体の医療費増大にもつながります。

社会的フレイルのチェックポイント

以下の項目に3つ以上該当する場合、社会的フレイルの可能性があります。

  • ・ 一日中、誰とも話をしない日がある
  • ・ 困ったときに頼れる人が誰もいない
  • ・ 近所付き合いがほとんどない
  • ・ 趣味やサークル活動に参加していない
  • ・ 外出は週に1回以下である
  • ・ 家族や友人との連絡が月に1回以下である
  • ・ 社会的な役割(仕事、ボランティアなど)がない
  • ・ 孤独を感じることが多い

○社会的フレイル予防・改善のための実践法

既存のネットワークの強化

まずは既に持っているつながりを大切にしましょう。家族への定期的な連絡、古い友人との再会、近所への挨拶など、小さなコミュニケーションから始めることが重要です。

地域活動への参加

自治会、趣味のサークル、ボランティア活動など、興味のある活動に参加してみましょう。重要なのは「義務」ではなく「楽しみ」として参加することです。無理のない範囲で、継続できる活動を選びましょう。

新しい学びの場

生涯学習、カルチャーセンター、オンライン講座などは、学ぶ楽しみと同時に新しい人間関係を築く機会となります。「今さら学んでも」という考えは捨て、知的好奇心を大切にしましょう。

世代間交流

子どもや若い世代との交流は、新鮮な刺激となります。孫との時間、学校でのボランティア、地域の多世代交流イベントなどに参加してみましょう。

デジタルツールの活用

スマートフォンやタブレットを使いこなすことで、遠くの家族や友人とつながることができます。ビデオ通話、SNS、オンラインコミュニティなど、新しいコミュニケーション手段を学ぶことも有効です。

役割を持つこと

「誰かの役に立っている」という実感は、生きがいと自己肯定感を高めます。ボランティア、地域の見守り活動、趣味を活かした教室開催など、自分ができる形で貢献しましょう。

◎社会的フレイルは改善しやすいフレイル

社会的フレイルは健康長寿の大きな障壁となりますが、同時に最も改善しやすいフレイルでもあります。一歩踏み出す勇気さえあれば、新しいつながりを作ることは何歳からでも可能です。「人付き合いが苦手」「今さら新しい関係を作るのは」と思わず、小さな一歩から始めてみましょう。

人とのつながりは、単なる「あったら良いもの」ではなく、健康を維持するための「必須要素」です。専門家のサポートを受けながら、身体機能を改善し、社会参加の機会を広げることで、より充実した人生を送ることができます。孤独を感じている方、社会とのつながりを取り戻したい方は、ぜひ専門家に相談してみてください。あなたの一歩が、健やかで豊かな未来につながります。