Column コラム

身体的フレイルとは~筋力低下を防ぎ、活動的な毎日を取り戻す~

「階段がつらい」「筋力が落ちた」といった身体的フレイルは、諦める必要のない改善可能なサインです。このコラムでは理学療法士が、サルコペニアとの違いや自宅でできる簡単な筋力チェックを解説。そして、筋力低下を防ぎ、活動的な毎日を取り戻すために効果的な運動と栄養の具体的な実践法を、専門家の視点からお伝えします。

○身体的フレイルとは

身体的フレイルは、加齢に伴う筋力や身体機能の低下により、日常生活に支障をきたし始めた状態を指します。「階段を上るのがつらい」「重い荷物が持てなくなった」「長時間歩けない」といった変化は、単なる年齢のせいではなく、身体的フレイルのサインかもしれません。

重要なのは、この段階であれば適切な運動と栄養管理により、機能を回復させることが十分可能だということです。医学的研究においても、高齢者、80代、90代の方でも筋力トレーニングにより筋肉量が増加することが証明されています。

○身体的フレイルの5つの診断基準

国際的に使用されているFriedらの基準では、以下の5項目のうち3つ以上に該当するとフレイル、1〜2つの場合はプレフレイル(フレイル予備軍)と判定されます。

1.体重減少

意図しない体重減少(6か月で2〜3kg以上)は、筋肉量の減少を示す重要なサインです。食欲不振や活動量低下が原因となることが多く、早期の栄養介入が必要です。

2.疲労感

「何をしても疲れやすい」「すぐに休みたくなる」という全身の疲労感は、身体的フレイルの典型的な症状です。これは筋力低下による身体活動の効率低下が原因となっています。

3.筋力低下

握力は全身の筋力を反映する指標として用いられます。男性で26kg未満、女性で18kg未満が目安とされています。握力低下は転倒リスクの上昇とも密接に関連しています。

4.歩行速度の低下

通常歩行で1m/秒未満(横断歩道を青信号で渡りきれない速度)は、身体機能低下の重要な指標です。歩行速度は生命予後とも関連することが多くの研究で示されています。

5.身体活動量の低下

「外出が億劫になった」「趣味の活動をやめた」など、活動量の減少は悪循環を生み出します。動かないことでさらに筋力が低下し、ますます動けなくなるという負のスパイラルに陥ります。

○サルコペニアとの関係

身体的フレイルを語る上で欠かせないのが「サルコペニア」です。これは加齢による筋肉量と筋力の低下を指す医学用語で、身体的フレイルの主要な原因となります。

サルコペニアは40代から進行が始まり、80歳までに筋肉量は最大40%減少すると言われています。特に下肢の筋肉(大腿四頭筋や臀筋)は上肢よりも早く減少するため、歩行や立ち上がり動作に影響が出やすいのです。

サルコペニア簡易チェック「指輪っかテスト
両手の親指と人差し指で輪を作り、利き足ではない方のふくらはぎの最も太い部分を囲んでみてください。輪っかとふくらはぎの間に隙間ができる場合は、筋肉量が減少している可能性(サルコペニアの疑い)が高く、注意が必要です。

ロコモティブシンドロームとの違い

身体的フレイルと混同されやすい概念に「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」があります。ロコモは骨、関節、筋肉など運動器の障害により、移動機能が低下した状態を指します。

身体的フレイルがより包括的な概念であるのに対し、ロコモは運動器に焦点を当てたものです。しかし実際には両者は重複することが多く、どちらも早期発見・早期介入が重要という点では共通しています。

○身体フレイルがもたらす影響

身体的フレイルを放置すると、以下のような深刻な影響が生じます。

転倒・骨折のリスク増大

筋力とバランス能力の低下により、転倒リスクが2〜3倍に上昇します。高齢者の転倒は大腿骨頸部骨折などの重篤な骨折につながり、寝たきりの主要な原因となります。

ADL(日常生活動作)の低下

着替え、入浴、トイレ動作など、基本的な日常生活に介助が必要になる可能性が高まります。これは本人のQOL(生活の質)を大きく低下させるだけでなく、家族の介護負担も増大させます。

生命予後への影響

複数の研究により、身体的フレイルは死亡率の上昇と関連することが示されています。心血管疾患、感染症などのリスクも高まります。

○身体的フレイル予防・改善のための実践法

運動療法の基本

レジスタンストレーニング(筋力トレーニング)と有酸素運動の組み合わせが最も効果的です。特に大腿四頭筋、臀筋、腹筋などの大きな筋肉群を鍛えることが重要です。週2〜3回、1回30〜60分程度の運動が推奨されます。

~今日からできる 身体的フレイル予防のための具体的な運動メニュー~

フレイル改善に特に有効とされるレジスタンス運動とバランス運動から、自宅で安全に取り組めるメニューを紹介します。無理せず、週に2〜3回を目安に実施しましょう。

椅子立ち上がりテスト兼トレーニング(下肢筋力・バランス)
肘掛けのない椅子に座り、何も掴まずに立ち上がり、再び座る動作を繰り返します。
ポイント: 立ち上がる際に、5回連続で12秒以上かかる場合は身体機能が低下しているサインです。最初は10回1セットから始め、徐々に回数を増やしましょう。

片脚立ち(バランス・転倒予防)
壁やテーブルに手をついて、片足で立ちます。
そのまま30秒間キープすることを目指します。転倒リスクが高いため、必ず支えられるものの近くで行ってください。

かかと上げ運動(ふくらはぎの筋力強化)
壁に手をつき、ゆっくりとつま先立ちになり、ゆっくりと元の位置に戻します。
10回1セットで、2〜3セットを目安に継続しましょう。

栄養管理の重要性

たんぱく質摂取は筋肉維持に不可欠です。高齢者は体重1kgあたり1.0〜1.2gのたんぱく質が必要とされ、これは若年者よりも多い量です。肉、魚、卵、大豆製品をバランスよく摂取しましょう。

ビタミンDとカルシウム

骨と筋肉の健康維持には、ビタミンDとカルシウムも重要です。日光浴(1日15分程度)と食事からの摂取を心がけましょう。

○理学療法士による専門サポートの役割と自費リハビリの優位性

理学療法士による専門的な評価と指導は、身体的フレイルの改善に大きな効果を発揮します

個々の身体状況、疾患、生活環境に応じた最適な運動プログラムの作成、正しいフォームでの運動指導、進捗状況のモニタリングなど、専門家ならではのサポートが可能です。

フレイル予防の運動は、正しいフォームで行わなければ、関節を痛めたり効果が得られなかったりします。理学療法士は、個々の筋力や関節の状態を正確に評価し、リスクを最小限に抑えながら最大の効果が得られるよう、その方に適した個別の運動プログラムを作成・指導します。

特に、すでに膝や腰に痛みがある方、心疾患などの基礎疾患をお持ちの方、より効果的に体力を回復させたい方には、自費リハビリテーションサービスの利用をお勧めします。保険診療の制約を受けず、十分な時間をかけた個別指導により、確実な改善を目指すことができます。

◎身体的フレイルの改善を目指して

身体的フレイルは決して避けられない老化現象ではありません。適切な運動と栄養管理、そして専門家のサポートにより、何歳からでも改善が可能です。

「少し体力が落ちたかな」と感じたら、それは体からの重要なメッセージです。早めの対策が、将来の健康で活動的な生活を守ります。専門家と一緒に、あなたに最適なフレイル予防・改善プログラムを始めてみませんか。