認知症は要介護原因の第1位であることを、ご存知ですか。
認知症を予防するためにできることは、あるのでしょうか。こういった疑問を持つ方も多いと思います。
今回は、認知症予防について、詳しくご案内します。
○認知症が要介護の最大原因
令和4年の厚生労働省「国民生活基礎調査」によれば、要介護者の原因第1位は「認知症」で23.6%を占めています。つまり、約4人に1人が認知症によって介護が必要になっているのです。
しかし、ここに希望があります。国際的な研究チームによる報告では、認知症の約40%は予防可能な12の危険因子によって引き起こされることが明らかになっています¹。
つまり、適切な対策により、認知症リスクを大幅に減らすことができるのです。
○運動による認知症予防~最も強力な予防法~
有酸素運動が脳を若返らせる
有酸素運動は、認知症予防に最も効果的な方法の一つです。
研究によると、平均年齢66歳の高齢者が週3回、40分のウォーキングを1年間継続したところ、記憶を司る海馬(かいば)の容積が2%増加したことが報告されています²。
通常、海馬は年に1〜2%ずつ縮小するため、この結果は「脳が1〜2歳若返った」ことを意味します。
なぜ運動が脳に良いのでしょうか。
運動により脳への血流が増加し、BDNF(脳由来神経栄養因子)という脳細胞の成長と維持を促す物質が分泌されます。また、運動は海馬での新しい神経細胞の生成(神経新生)を促進することも分かっています。
推奨される運動
~有酸素運動:週150分(1日20〜30分を週5日)~
・ウォーキング、水泳、サイクリング、ダンスなど
・「ややきつい」と感じる程度の強度
・会話ができる程度のペース
~筋力トレーニング:週2〜3回~
研究では、筋力トレーニングも認知機能改善に有効であることが示されています³
・スクワット、腕立て伏せなど大きな筋肉を使う運動
デュアルタスクの活用
研究では、運動と認知課題を同時に行う「デュアルタスク」が、単独の運動よりも認知機能向上に効果的であることが示されています⁴。例えば、以下のようなものです。
・歩きながら計算する
・ステップ運動をしながらしりとりをする
・体操をしながら曜日を逆から言う
~脳を刺激する活動…認知的に活発な生活~
知的活動の重要性
ある長期追跡研究では、読書、ゲーム、楽器演奏などの知的活動を頻繁に行う人は、認知症発症リスクが約50%低いことが報告されています⁵。
効果的な活動:
・読書と学習:新聞、本、雑誌を読む、新しいことを学ぶ
・ゲームとパズル:将棋、囲碁、クロスワード、数独
・音楽:楽器演奏、歌を歌う(複数の脳領域を同時に使う)
・創造的活動:絵画、陶芸、俳句、日記を書く
・語学学習:外国語を学ぶことは高度な認知トレーニング
重要なのは、「既に得意なこと」だけでなく、「新しいことに挑戦する」ことです。脳は新しい刺激によって活性化されます。
○社会参加と対人交流~孤立が認知症リスクを高める~
社会的つながりの保護効果
研究では、社会的に孤立している人は、そうでない人に比べて認知症リスクが約50%高いことが示されています⁶。逆に言えば、豊かな社会的つながりは脳を守ります。
社会的に孤立している人は、そうでない人に比べて認知症リスクが約50%高いことが示されています⁶。逆に言えば、豊かな社会的つながりは脳を守ります。
対人交流が脳に良い理由:
・会話は高度な認知処理(聞く、理解する、考える、話す)を要求
・表情や感情を読み取ることで脳の広範な領域が活性化
・社会的役割がある(頼られる、必要とされる)ことが精神的健康を保つ
・ストレス軽減効果
効果的な社会参加:
・趣味のサークル、ボランティア活動
・地域の集まり、自治会活動
・友人との定期的な交流
・孫や若い世代との交流
・オンラインでのコミュニケーション
○生活習慣病の管理~血管を守ることは脳を守ること~
中年期からの管理が重要
認知症の多くは、実は20〜30年かけて進行します。
研究では、中年期(40〜50代)の高血圧、糖尿病、高コレステロールが、20〜30年後の認知症リスクを大きく高めることが示されています⁷。
管理すべき危険因子:
・高血圧:収縮期血圧130mmHg未満を目標
・糖尿病:HbA1c 7.0%未満を維持
・脂質異常症:LDLコレステロールの適正管理
・肥満:特に中年期の肥満は認知症リスク増加
・喫煙:禁煙は認知症リスクを大きく減少
血管性認知症の予防
脳卒中後の認知症(血管性認知症)は、生活習慣病の管理により予防可能です。「血管を守ることは脳を守ること」なのです。
○栄養と食生活~脳に良い食事パターン~
地中海食の推奨
研究では、魚、オリーブオイル、野菜、果物を中心とした地中海式の食事パターンが、認知症リスクを最大40%減少させることが報告されています⁸。
脳に良い栄養素:
・オメガ3脂肪酸(青魚):脳の構造維持、炎症抑制
・抗酸化物質(色の濃い野菜・果物):脳の酸化ストレス軽減
・ビタミンB群(肉、魚、卵、葉物野菜):神経機能の維持
・ビタミンD(日光浴、魚):認知機能維持に重要
・ポリフェノール(緑茶、ベリー類):神経保護作用
避けるべき食習慣:
・加工食品、ファストフードの過剰摂取
・過度の飲酒(適量は1日1合程度まで)
・塩分の過剰摂取
○睡眠の質~脳の老廃物除去システム~
睡眠と認知症の関係
研究では、睡眠障害のある人は認知症リスクが約1.5倍高いことが示されています⁹。
睡眠中、脳内のリンパ系(グリンファティックシステム)が活性化し、アミロイドβなどの老廃物が除去されます。この老廃物の蓄積がアルツハイマー型認知症の原因の一つとされています。
良質な睡眠のために:
・7〜8時間の睡眠時間を確保
・規則正しい就寝・起床時刻
・就寝前のリラックス習慣
・寝室環境の整備(暗さ、静けさ、適温)
・日中の運動習慣
○聴力低下への対応~見過ごされがちなリスク要因~
聴力低下が認知症リスクを高める
研究では、難聴がある人は認知症リスクが約2〜5倍高いことが報告されています¹⁰。
聴力低下により、社会的交流が減少し、脳への刺激が減ることが原因と考えられています。
重要なのは、補聴器を適切に使用することです。研究でも、補聴器使用により認知機能低下のリスクが軽減されることが示されています¹¹。
○専門家による包括的サポートの重要性
専門家による包括的サポートの重要性
認知症予防には、運動、栄養、社会参加、生活習慣病管理など多面的なアプローチが必要です。理学療法士による運動指導、栄養士による食事指導、医師による生活習慣病管理を統合したプログラムが最も効果的です。
特に、早期からの個別評価とプログラムの作成、継続的なモニタリングが重要です。自費リハビリのサービスでは時間をかけた包括的な評価と、生活スタイルに合わせた実践可能なプログラムを提供することが可能です。
◎認知症予防は特別なことではない
認知症予防は「特別なこと」ではなく、日々の生活習慣の積み重ねです。運動、知的活動、社会参加、生活習慣病管理、良質な睡眠―これらを組み合わせることで、認知症リスクを大幅に減らすことができます。
重要なのは「今から始める」ことです。認知症の進行は数十年かけて起こります。今日の選択が、20年後、30年後の脳の健康を決めるのです。専門家のサポートを受けながら、あなたに最適な認知症予防プログラムを始めてみませんか。
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reference:
1.Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. Lancet. 2020;396(10248):413-446.
2.Erickson KI, et al. Exercise training increases size of hippocampus and improves memory. PNAS. 2011;108(7):3017-3022.
3.Liu Y, et al. Effects of resistance exercise on cognitive function in patients with Alzheimer disease: a randomized controlled trial. Am J Phys Med Rehabil. 2020;99(4):342-348.
4.Law LL, et al. Physical exercise attenuates cognitive decline and reduces behavioural problems in people with mild cognitive impairment and dementia: a systematic review. J Physiother. 2020;66(1):9-18.
5.Wilson RS, et al. Participation in cognitively stimulating activities and risk of incident Alzheimer disease. JAMA. 2002;287(6):742-748.
6.Kuiper JS, et al. Social relationships and risk of dementia: A systematic review and meta-analysis. Ageing Res Rev. 2015;22:39-57.
7.Whitmer RA, et al. Midlife cardiovascular risk factors and risk of dementia in late life. Neurology. 2005;64(2):277-281.
8.Scarmeas N, et al. Mediterranean diet and risk for Alzheimer’s disease. Ann Neurol. 2006;59(6):912-921.
9.Yaffe K, et al. Sleep-disordered breathing, hypoxia, and risk of mild cognitive impairment and dementia in older women. JAMA. 2011;306(6):613-619.
10.Lin FR, et al. Hearing loss and cognitive decline in older adults. JAMA Intern Med. 2013;173(4):293-299.
11.Maharani A, et al. Longitudinal relationship between hearing aid use and cognitive function in older Americans. J Am Geriatr Soc. 2018;66(6):1130-1136.